活動記録其の16・浜名湖編
文:隊長
2001年7月8日
トラ!トラ!トラ! 我、浜名湖横断ニ、成功セリ。
真夏のスーパーバトル!?
“鮫”史上、最高の体育会系チャレンジは天気晴朗なれども波高し!
今回のMAP

某・転○隊風に言うならば
「世の中には二種類の人間しかいない。
 浜名湖を横断した人間と、そうでない人間である!」


 かくしてその時はやってきた。チーム“鮫”シーズン2001、最高にして最強...いや最凶のチャレンジがこのインフレータブルカヤックによる「浜名湖横断」計画である。てなコトで7月8日(日)、ガツンと晴れたドピーカンの夏の日の朝午前約11時、またしてもオレ(隊長)はまっ黄っきいのアロハに身を包み、東名高速を東へ東へとひた走っていた。浜松西インターを出た所にはすでに先に到着したラスティック伊藤隊員の赤いスープラが待っている。まずここから館山寺方面へ向かい、アウトポイントを探す手はずである。その時インター付近は西風が吹いていた。

 インフレータブルカヤックで湖のような静水を漕ぐ場合、最も問題となるのが「風」である。それ自体空気の塊であるインフレータブルカヤックは軽く、風に流されやすい。また水面上に出ている部分もポリ艇やファルトボートなど、他のタイプのカヤックよりも大きく、当然風の抵抗も受けやすくなってしまっている。しかも別名“ダッキー”という名の通り、漕ぐたびにおしりをフリフリしてしまうほど、非常に回転性能が高い(直進性がナイ、ともいう)ので、スラローム状の水路が多い川では有利だが、逆に湖のようなところではパワーロスが大きく不利である。にもかかわらず今回、インフレータブルによる浜名湖横断を企てたのは、もともと昨年夏ブチ上げた、シーカヤックによる「三河湾横断」が、知多半島の先から日間賀島までがカヌー禁止海域になっているという事実を知り、挫折してしまったことに端を発する。
 慣れると一日に50kmを漕ぐことができるというシーカヤックに憧れ、漕いでみようってコトで行った西表島では、あんまり速度のでないシットオントップタイプのシーカヤックしか漕ぐことができず、オレは少々欲求不満を溜めていた。やはり、波と潮風を蹴散らし、動力の助けを借りずに己の腕一本で海を渡るシーカヤックこそまさに“鮫”というイメージであり、いかにも“男の乗り物”というカンジがするではないか。であればやはり、どこか小さくてもいいから「海を渡る」ということがやってみたくて仕方が無くなってしまったのだ。「海峡横断とかはムリでも三河湾ぐらいなら...」がボツになり、「それなら浜名湖だっ!」に変わるが、今度は「浜名湖ならシーカヤック使うほどでもない、我々のダッキーでもなんとかなるだろう」となった。しかし、まったり系カヌーチームの隊長であるオレが、そんなことを思ってしまったのがウンのつきである。チーム名に似つかわしくなく、コワいどころか、ヨワヨワの“鰯”軍団であるのが我がチーム“鮫”なのだ。
「浜名湖横断行くぞ!」
と言ってもイシカワ顧問は
「いやぁ、ボクは体育会系なのはチョット...あ、仕事が...」
と言葉を濁し、“撃沈王”イチロー隊員は瀬が無いにもかかわらず、前週の九頭竜湖ツアーで逆風にヘコたれて
「いってらっしゃいませ、ごぼごほ」
などという仮病メールを送ってくる始末である。  九頭竜湖の逆風を漕ぎきったオレも少々の風であればクリアする自信はついていたが、九頭竜湖と違い「岸が近くにない」ところをえんえん漕がなければならないという心細さもあり「やっぱ無理かなぁ」と思い始めていた。しかしそこに心強い味方が現れた。
「体力には自信あります! 浜名湖でもいいですよ!」
という隠れ体力派・ラスティック伊藤隊員である。しかし彼は突然の用事で前週の九頭竜湖ツアーに参加しておらず、静水を漕いだ経験が無い。結局今週のツアーは熟考の末、同じく九頭竜湖で「へなちょこ」さをアピールしたダッシュ隊員も参加するとのことで、「天竜川」に決定した。しかしこれが思わぬ展開を呼ぶことになってしまう。
 イチロー隊員はさも当然のように
「天竜川方面には行っても、天竜川には行きません。君子危うきに近寄らず、です。」
などとほざき、普通に棄権。ダッシュ隊員は前々日の夜、酔っぱらってナゼか走った折りに転び“足を”ケガしたため不参加。土居隊員も土曜の夕方、飲み会の席上で突然「体調が芳しくない」などと珍しくオトナ的表現で不調を訴えて棄権。結局、前日夜の段階で参加者はオレとラスティック伊藤隊員の二人のみ、となってしまった。 行き先を変更しての天竜川だったが、そっちの方がよけいにコワかったようで、逃亡者続出。こーゆーところが“鮫”の“鰯”たる所以である。
 そういえば最近“鮫”内部では天竜川を“暴れ天竜”などと、いにしえのプロレスラー・天竜源一郎(←まだ現役!?)の如きに形容するのが定着してしまっている。
「くそー、みんなビビりやがって」
と思ったが、ズル賢いオレはいぢわるな一計を巡らし、「天竜川・延期」の策略に出ることにする。つまり次回があるってコトで、みんな次はどういう言い訳で棄権するのか楽しみ? という作戦である。
 とか、どーでもいーことで独りほくそ笑みつつもオレのアタマには別の不安が湧いてきていた。
「しかし本当に浜名湖は渡れるもんだろうか?」
である。
とりつくところもない広い広い浜名湖の真ん中で強風に漕ぎ疲れ、潮に流されて遭難...などと不吉な想像がアタマの中で膨らむ。しかも静水を漕いだことが無いラスティック伊藤隊員と二人きりである。

 消去法的に決定したにしてはデカ過ぎるミッションのため、実際に館山寺南の庄内町・村櫛海岸付近でアウトポイントを見つけ、そこからエントリーポイントとなる対岸の大崎・礫(つぶて)島方面を望むオレの心はその時「超・鰯」であった。
「やっぱ止めようかなぁ...」
と思うが、横を見ると伊藤隊員は潮風のニオイを嗅いで、妙にすがすがしい顔をしてウットリしている。
10分後、意を決した我々は伊藤隊員の車をそこに残し出発。再び東名高速を三ヶ日方面へ戻る車中のBGMは「宇宙戦艦ヤマト」(←“鮫”のテーマソングのひとつ)であった。「さらば〜地球よ〜」というフレーズが、やたら哀愁を帯びてムネに刺さる。
「なんか、遭難しそう...」
などと「超絶・鰯」になるオレに対し伊藤隊員は
「今から天竜川に変えますか?」
などと、無理難題を言って更に心理的な逃げ道を消していく。
 道に迷いながらも小さな湾になり、フェリー乗り場がある大崎の瀬戸海岸に着いた我々がモタモタとフネをセットアップし始めたのは、結局いつものように午後約13時であった。伊藤隊員はいつもの「RUSTIC-U」・スターンズ・レイカータンデム、オレはスピードを重視して245cmの小舟・シャーク2号(GUMOTEX.jr)である。
 組立て終わる。オレ、おにぎりを食べて一服。そしてトイレに行く。伊藤隊員、ジュースを一口飲んで「ハァ」と小さくタメ息をつくと、同じくトイレに行く。無言の数分ののち、

 オレ「伊藤くん、沈したら二人艇に乗っけてもらうかもしれん。その時はヨロシク!」
 伊藤「はぁ...。それとも、最初から二人艇で行きますか?」
 オレ「...」(←かなり真剣に迷った)

 という、よくわからないが二人とも微妙に不安を隠しきれないという会話をしつつ、我々は非常SOS用の携帯電話を防水パックに入れて大事そうに持ち、ついに浜名湖へと繰り出した。いったん前方800mほどの所に浮かぶ礫島を目指す。風は逆風・南の風になっていた。地図上はそこから対岸まで約6kmの行程だ。礫島まで行ったカンジでその先を行くかどうか決めようということにしていた我々は、礫島の神社の鳥居目指してスルスルと漕いで行った。


 途中、ウィンドサーフィンをしている人が側を通り、伊藤隊員に何事か親しげに話しかけている。どうやら「目の前を通ってごめんなさい」ということらしい。川でタマに出会う極悪な釣り師に、そのハナクソでも煎じて飲ませてやりたいくらい素敵なマナーの良さである。
 たったそれだけのことでいきなり気分が良くなったオレは、張り切って礫島を目指して漕いでみた。と、意外とスグ着いてしまう。ここまでは南に向かうため、完全逆風であったにもかかわらずである。ココロに希望の灯がともる。そして礫島と大崎の間を抜け、遂に我々は外洋(っても湖だけど)へと漕ぎ出した。ここから浜名湖を東西に横切り、村櫛海岸を目指すのだ。


 浜名湖はフネが多い。観光船・フェリー、釣り船からクルーザー、水上スキーを引っ張るパワーボート、ヨット、何かの運搬船、そして水上バイク、ウィンドサーフィンと、岸近くだとひっきりなしに色々なフネがやってくる。水の上には我々しか居なかった先週の九頭竜湖とはエライ違いである。フネが通ると当然引き波ができる。その引き波が我々の小さなカヤックには強敵なのだ。波に対してフネを直角にしないとひっくり返されてしまうらしい。一応最初のウチは基本通りそうしていたが、ナナメでも結構イケることが判明し、その後は真横からの波でも「腰で合わせる」操艇術でなんなくクリアするようになる。
 しかしここでもやはり、油断は禁物なのであった。引き波ではなく、海から来る南風が作り出すうねりが、南北に長い浜名湖を移動してくる間に増幅され、時として巨大な3級クラスのうねりとなってしまうことがある。地元では「南風は危ない」と言われているそうだが、まさにそれがやってきたのだ。フト気がつくと右前方から山脈のような形をした水の尾根が、音も立てずに迫ってきていた。
「!!! ヤバいッ!」
オレは叫びながらフネの向きを直角に変える。伊藤隊員も合わせたようだ。そのうねりは3・4波の文字通り波状攻撃を仕掛けてきた。フネがゆるりと、しかし大きく前のめりに傾く。と、スピードの早いエレベーターに乗ったかのようにスッと落ちる。ひと山ふた山越えた後の三つ目のうねりが一番大きく、落差1.2mほどの巨大なうねりに乗り、バランスが...!
「うぉぉぉぉぉー!!」
思わず魚がビビってハネそうな大声を出してしまいつつ、何とかクリアー! ふぅ、ヤバイうねりだった。
 それにしても湖の上は次々と風景が変わる川に比べて殺風景だと思っていたが、先週の九頭竜湖といい、この浜名湖といい、意外と楽しいものである。湖のど真ん中あたりだとあまり他のフネも来ない。だだっ広い水面の上に、オレはポツンと木の葉のように浮いていた。うねりに合わせて漂っているだけで、とてものどかで気持ちがよく、潮風すら心地いい。そして周りにはいつものように、まったりとして空を見上げている伊藤隊員のフネの他、何も無い。空までもがプライベートな、「自分の」空間のように感じられる。湖はこの「広さ」がイイのだ。

 波に揺られ、しばらく漕いではまた波に揺られる。そんなことを繰り返しながら、横風の中我々は着々とフネを進め、遂に午後3時27分、庄内町・村櫛海岸に上陸。無事浜名湖横断に成功したのだった。
イシカワ顧問からのメールが入っている。
「天竜川、無事に下れましたか?」
返信してやろう。
「トラ!トラ!トラ!我、浜名湖横断ニ成功セリ!」

今回の教訓: 「男はいつもチャレンジャーでなければいけない。
タマには少々キツイことにも挑戦するべし!」