活動記録其の40・揖斐川編part−2
文:隊長
2002年5月4日
揖斐峡リターンズ! “Wの瀬”で撃沈! 
〜そして揖斐峡に刻まれた新たな沈とは?!〜
今年のゴールデンウィークの中日ともいえる5月4日(土)朝約10時、小雨降る岐阜県・揖斐川の上流、揖斐川町役場の駐車場にオレ(隊長)が到着した時、すでにそこには“ミスター・沈”ことアビルマン隊員と、今期ついに“第2かつお丸”(GUMOTEX・ヘリオス340)を購入し初参戦の“鰹”にしお隊員が待っていた。そしてオレの車の助手席には、この東海地区の人間なら誰でも知っているお嬢様大学・金城学院に中学から通ったといういわゆる“純金”で、現在は某広告代理店社長秘書という「金魚」ことマリちゃんゲスト隊員が座っていた。所定の集合時間までに到着したのはこのわずか4名である。
 と、3月の木曽川ツアーでゲスト参加し、最近オレのシャーク3号と同じスターンズ・リバーランナーを購入したという、ためごろう隊員から電話が。結構近くまで来ているらしい。もうすぐ5人である。そしてオレは、いつものようにまだ来ていないイシカワ顧問に電話してみる。すると7〜8回コールした後、やっと出た電話口の向こうのイシカワ顧問の声は、明らかに今、電話で起こされたという声だった。結局、翌日から韓国に出張ということもあり、結局今日はキャンセルするそうである。
 後は“特別機動公務員”sakuzo隊員と、今日は友達を連れてくるという“チャレンジャー”うーやん隊員を待つ。
 約10分後、オレとマリちゃんゲスト隊員が揖斐川町役場のトイレを借りて出てくると、ためごろう隊員とsakuzo隊員が到着していた。ほどなくうーやん隊員たちも到着し、本日のメンバー8名(←またしても最多人数タイ記録)が勢揃いする。
 しかし今日は天候がよろしくない。それでも先日の牧田川と違い、小雨のためなんとかできそうな感じがした。しかも今回のコースはダムとダムの間ということもあり、比較的水量も安定している。豪雨でもない限り、急な放水もなさそうという判断の結果、やはりツアー決行となる。なんだかんだでも結局「漕ぎたい」気持ちが先に立ってしまう“鮫”なのだった。
 名古屋カヌーチーム“鮫”ゴールデンウィーク・ツアー第3弾はこの、揖斐川・揖斐峡コースである。

 車で少し上流に遡り、西平ダムを越えてトンネルの手前の測道を左に折れ、前回と同じアウトポイントに車を3台置く。それから上流の久瀬ダムに向かった。

 エントリーポイントも前回と同じである。霧雨の中セットアップを開始する。

 今回は前述の“鰹”隊員のヘリオス、ためごろう隊員のスターンズ・リバーランナーだけでなく、sakuzo隊員もGUMOTEX・サファリを新たに購入しており、なんと今日この揖斐川で
一気に3艇が進水式である。
 うーやん隊員はお友達のハマチゲスト隊員と二人でDr.水林隊員から借りてきたカラカルUに乗る。オレは“シャーク4号”GUMOTEX・ヘリオス380で、前席には“金魚”マリちゃんゲスト隊員だ。そしてアビルマン隊員は今日も懲りない“激烈最強号”ことGUMOTEX・サファリでまたしても絶好調の様子である。

 11時ちょっと前、8人で6艇のチーム“鮫”は揖斐川にエントリーした。今日はここから約5kmのショートコースである。人数が多いので、距離はこのくらい短めでもちょうど良いような気がしていた。ゆったり行くことにする。

 天候は相変わらず霧雨だが、別に寒くもない。前方の峡谷には山あいから湧き出したような霧がかかり、白く霞んでいきなり
幽玄の世界である。水質は、前回と同じで透明度はそこそこ。雨のせいか、水量は前より多いような気がするが、しばらく行くと前回とまったく同じ所で引っかかって止まる。やはり所詮はダム下の水量である。少々の雨には関係なく、いつもほぼ一定なのだろう。ほんのわずかの落ち込みがいくつかあるが、初めてサファリに乗ったsakuzo隊員は
「こっ、コワい〜!」
などとビビッている。珍しい光景だ。チーム“鮫”No.1の使い手・sakuzo隊員をもってしてもやはり、サファリは乗るのが怖いフネなのだろうか。
 大きな左カーブを回り込むと、峡谷に掛かっていた霧が水面にまで降りてきて、前方までが少し霞んで見える。

 ゆったり漕いだつもりだったが、意外と早く発電所が見えてきてしまった。この放水口の下が500mほどのストレートになっていて、その流れが最後に右岸に寄り、突き当たっている所が昨年“撃沈王”イチロー隊員&“もっち”オカモト隊員コンビを阿鼻叫喚のお笑い地獄に沈めた“Wの瀬”である。
 しかし今日はオレが、くしくもあの時のイチロー隊員たちのシチュエーションと同じ「ヘリオスに二人乗り」なのだ。ジツは来る前から微妙にビビッていたオレであった。揖斐川沿いを車で走っている時も、先に着いたアビルマン隊員から
「水が多い」
とか
「二人艇なら沈するのでは?」
とか、いろいろ脅しのメールをもらってはいたが、
「二人艇より沈しやすい一人艇もあるよなー?」
と返事を打ったものの、一抹の不安は拭いきれないでいた。
 今日はなんだか妙に調子いいアビルマン隊員が、珍しく先頭切って放水口の流れに飛び込む。続くオレ&マリちゃんゲスト隊員のシャーク4号。やはりここの水量は結構出ていて、ぐぐっとフネの進行方向を曲げられるが、そんなコトは折り込み済みの進入角度のため、うまい具合に右岸寄りの波が立っている所をバウンドしながらも進むことができた。それでも前席のマリちゃんゲスト隊員は波が間近で弾けるのがかなり新鮮らしく、悲鳴をあげている。そのまま無事に川のど真ん中の本流に乗った。
 そこからは結構斜度があってスピードが出ているのだが、岩らしい岩もほとんどないため、早いだけで瀬になっている所などほとんどない。後を振り返るとうー隊員&ハマチゲスト隊員コンビの青いカラカルと、sakuzo隊員の赤いサファリがついてきている。“鰹”隊員とためごろう隊員はかなり遅れて、霧の向こうに霞んでいた。
 と、“Wの瀬”にビビッたのか、先に行ったアビルマン隊員が漕ぎ上がりをしながら待っていた。オレたちのフネを先に行かせて様子を見ようという魂胆のようだ。しかし今日の“Wの瀬”付近は発電所の放水が前回より多いのか、川幅が拡がっており、チキンルートも取れなくはなさそうだ。それでもやはりセンター寄りは浅いようだが...。
「やっぱりヒーローコース行くぞー!」
とオレは宣言し、右寄りの流速が早い方に進路を変更する。マリちゃんゲスト隊員は
「えっ!?」
と、
一瞬動揺したようだが、あきらめたようだ。先頭切って右岸寄りからスピードに乗って“Wの瀬”に突入するシャーク4号。「W」の一つ目、崖に当たった流れがハネ返されている所の手前まで突っ込み、ギリギりの所で方向転換! ここで迫り来る崖にビビッて体重移動に失敗すると、前年のイチロー隊員たちの二の舞・スライディング沈をカマしてしまう所だが、これについてはビビッて体重を内側にかけないよう事前にマリちゃんゲスト隊員に言い含めてあった。そのおかげか無事クリア! 下のちょっとした落ち込みの所でコントロールを失い、フネが横向きになってヒヤッとするが、結局フツーに通過することに成功する。そして「W」の二つ目は、崖側に吸い込まれることすらなくこれまた普通に通過。
「ちょっとびっくりしたねー」
と言いながら後を振り返ると、“Wの瀬”の中で
赤いフネが逆さまになっているのが見えた。
やっぱりやってくれたようだ。もちろんアビルマン隊員であった。本人曰く
「気が付いたらひっくり返っていた」
というくらいスムーズに撃沈し、まったくいつものように流されてくるアビルマン隊員&“激烈最強号”。もう
見慣れた光景だ。川霧の漂う水面を二つの浮遊物体が移動して行く。  結局、沈したまま“Wの瀬”の下まで流されたアビルマン隊員は、前回我々がカレーを作って食べたランチポイントでやっと上陸・リカバリーしたのだった。
 陸に上がったアビルマン隊員の体からは、まさに
「沈の闘気」とも言うべきであるように見える湯気が、モア〜ッと立ち上っている。水温はちょっと低いようだが、アビルマン隊員の体温はかなり高いかのように見える(でも36℃)。

 ちょっと時間的には早いが、結局同じ所で昼飯にすることにする。
 今日の給食当番はうー隊員で、メニューは「ヤキソバ」である。いつものようにパドルの上でキャベツとネギを刻み、鉄板の上で肉を焼く。いー感じに出来たヤキソバは少々薄めの味付けだったものの、霧の漂う川の上を進んできた我々には「極上の味わい」といっても良かった。アビルマン隊員は撃沈後のすがすがしい笑顔で、特にウマそうにヤキソバを食っていた。一回では普通に、二回目はキムチを入れてキムチヤキソバにして楽しめた霧中のヤキソバだった。

 そんな昼食後、我々は再び出発。ランチポイントの目の前には流れが渦を巻いている所が2〜3あり、アビルマン隊員は
「あそこに入ったら沈する〜」
とビビッてよけている。sakuzo隊員まで
「あれに捕まったら出れんでしょう」
と言う。しかし見たところそんなに強い回転のようにも見えなかったので、オレはマリちゃんゲスト隊員を楽しませてやろうと、わざと渦の方へ漕ぎ寄せてみた。
 渦を通過。確かに回転力は感じるものの、二人乗って重心も安定した3m80cmのシャーク4号はビクともしない。少し方向を曲げられただけで普通に通過できた。
 と、後方になんだかバタついた気配が...。振り返るとためごろう隊員が沈している。
「?」
オレたちのマネをして渦に突入したらしいが、ヒネられてしまったらしい。
“渦沈”である。またしても新たな沈を作り出してしまっているチーム“鮫”なのだった。しかし今回それを作りだしたのは“沈の総合商社”アビルマン隊員ではなく、ためごろう隊員であるという辺りが新しい。って、先日の武儀川ツアーの“藤沈”や“枝沈”もアビルマン隊員ではないじゃないか。こりゃまた意外である。
 しかしあの安定しているハズのスターンズ・リバーランナーが、見事にひっくり返って逆さになっているのは、これもなんだかフシギな光景だ。霧の漂う水面を流されている青いライフジャケットと青いウィンドブレーカーのためごろう隊員は、いかにも寒そうに見える。しかし実際はそれほどでもないのか、表情は至って冷静だ。足が付かない所が続いていて、ワリと流れがあるので、岸まで泳ぐことができないらしい。
 結局2〜30m流されて左岸に河原がある所まで辿りついたので、シャーク4号でフネごとためごろう隊員を押して行こうとするが思うようにいかない。そうこうするうちにためごろう隊員は根性でフネによじ登ろうとし始めた。確かにスターンズ・リバーランナーの安定性なら、縦方向から這い上がれば水上の再乗艇も不可能ではない。が、ためごろう隊員は強引に横からよじ登ってしまった。
(おお、横からでも登れるんだ)
と、同じくシャーク3号としてリバーランナーを愛艇にしているオレは素朴に感動していた。



 その後は瀬もまったくと言っていいほど無く、風もまったくないが流れだけはある、という静かな水面を我々は進んで行った。前方は霧が立ちこめ、どうなっているのか見えない。2度目でなければ結構不安になるようなシチュエーションではある。両側は木が生い茂る森のようなロケーションだ。水面は静かだがアビルマン隊員が
「なんかヘンなクセがある」
というように、ワリと流れている。そして立ちこめる霧が体感温度を下げているような気もする。思わず昔テレビで見たネス湖を思い出す。
 瀬がある所に比べると水質が落ちているため碧色となっている水中には、いったいどんな魚が棲んでいるいるのだろう。川岸の浅い所では少し川底が見えるものの、他の所では「深そう」って感じがするだけで、実際の水深はまったくわからない。
(ここで沈するとなんかコワいなー)
そんなことを考えながらも幽玄の霧の中をポカーンとフネに乗って流されていくと、これはこれで心地よい。小雨混じりのグズついた天気だが、おかげでこんな山あいでは霧が見られるわけだ。これも自然の一風景なのだ。こういうツアーもありだと思った。揖斐峡は薄い霧が掛かり、水墨画の世界に迷い込んだかの様に、静けさに包まれていた。
 8人という“鮫”的には大人数のツアーだったが、霧に煙るシチュエーションのせいか、みんなそんなにハシャがず静かに漕いでいった。大きな右カーブを曲がると少し霧も晴れ、赤い橋が見えてくる。この橋を越えるともうほとんど静水になり、ゴールは目前だ。

 橋を過ぎてしばらくすると右岸に赤くサビた、川には不釣り合いな巨大な鉄のフネが、入り江のような所に座礁したかのように置かれてあった。船首には何かローラーのようなものが付いている。宮崎駿の「天空の城ラピュタ」に出てきそうな雰囲気のデザインだ。おそらく浅くなった所を掘るためのしゅんせつ船なのだろう。しかし長らく使われていないように見えるそれは、小雨に打たれてなんだか寂しそうに見えた。

 約5kmの行程を終えて岸に上がったのは15時を少し過ぎた頃だった。晴天ばかりではなく、霧の中のような所を静かに漕ぐのも、それはそれで味のあるものだと思った今回の揖斐川ツアーだった。



今回の教訓: 「人を先に行かせてコースを読んでも、結局避けられない沈もある。
そして“渦沈”にも注意!」