活動記録其の2・員弁川編part2
文:イシカワ
2000年7月9日
員弁川 地獄の水中歩行!10キロツアーで7名被災!
今回のMAP

”チーム鮫”、私がその名前を聞いたのは2000年夏のはじめであった。
ラジオディレクターである俺は仕事の関係で週に一度ほど名古屋市内のとある編集社に出入りしていたのだが、そこで現隊長からカヌーのチームを作ったことを聞いたのだ。当時超多忙のスケジュールで仕事をこなす俺は、都会の遊びには精通していても、アウトドア、だとかスポーツちっくな遊びはどうしても敬遠してしまっていて、それほど興味を惹かれるものでもなかった。
「カヌーって自分で漕がなくちゃいけないんでしょ?なんでそんなわざわざ疲れることを...」
昼も夜も無く一週間バリバリ仕事をこなして疲れきった体をせっかくの休日にさらに虐めるような気にはなれなかったのだ。しかしカヌーの良さを熱心に語る隊長曰く 「体育会系のカヌーっていうイメージじゃないんだよね。自然の中で、ほとんど流れの無いところをプカプカと浮かぶだけ。もう疲れなんてフッ飛んじゃってねー、心も体もリフレッシュできるんだよねー。」 そっかあ。楽なんだあ。リフレッシュできるんだあ。疲れが取れるという言葉にようやく説得された俺は、カヌーチームへの参加を約束する。

それから二週後、なんとか休みが取れた俺は安価でライフジャケットとこれまた超安価のスキップジャックを買い込み、員弁川ツアーに参戦。ライフジャケット\3900、スキップジャック・パドル・ポンプ付\3000ナリ。ちなみに制服のアロハも\1900で購入してあった。アロハを着るというラフでナメたスタイルが、脱体育会系ノリで素敵だ。ただし、この時すでに状況は少し変わっていた。その前週、俺が行けなかったツアーでは”撃沈カーブ”なるものが発見・命名されている。(員弁川編part1参照)ちょっと危険な場所が2,3箇所発見されたそうだ。
「でも、そこだけはポーテージすればいいんでしょ?そんな危険なところは挑戦しないよ。俺は。」

さて、現地近くのユーストアで食事とペットボトル500ml2本を買い込み、鼻唄なんか歌いながら川へ到着。ここまでは完璧にお気楽パドラーたちによるなんちゃってカヌーチームの雰囲気だ。これならたまにリフレッシュのために参加してもいいかな。と、俺をその気にしてくれた。
「いやあ、いいですねぇ。あとはプカプカと浮かびながら川をのんびり下るだけだぁ。」
まるで温泉にでも来たような気分の俺でも、いざ川を目の前にすると少しだけ気が引き締まった。しかし言われたとおりに艇に乗り込み、最初は少し戸惑いながらもうまく漕ぎ出すことができると、引き締まったばかりの気持ちはすっかり緩みきっていた。
「ああ、楽チン楽チン。気持ちいいっすねぇ。」
熱い陽射しが照りつけるが、わざと水をかぶるとこれまた気持ちいい。
「これでビールがあると最高だねぇ。」
典型的オヤジ発言をしながらしばらく自然の景色にみとれながらのんびりと川を下っていった。
しかしそれは500mと続かないうちに終わったのであった。

「ガリガリッ」
フネが止まってしまった。水面下すぐのところに川底の石が見える。水深が浅いのだ。仕方ないので俺はフネを降りた。
「ところどころ浅くなっているところがあるので、その部分はフネを引いて歩かなくちゃいけないんですよ。3〜4箇所そうすれば、あとは大丈夫ですから。」
土居隊員が俺に説明してくれた。そうか。まぁ少しぐらいは体を動かさなくちゃ、人生楽ありゃ苦もあるさ・・・って水戸の黄門様も言ってるしね。(註:言ったのは水戸黄門ではなくそういう歌である)
俺はちょっとだけ歩けばすぐに漕ぎ出すことができる所まで辿り着けるのだと思っていた。しかしその少し後の隊長の言葉によって、その考えが甘いことであることを、予感させられた。
「今日は水が少ないなぁ。いつもより歩かないといかんかもしれんよ。」
今年は梅雨にあまり雨が降らなかったため、渇水気味だとは聞いていたが、この日の員弁川の水量はあまりにも少ないのだ。
それから、地獄の水中歩行による進軍が続いた。少し歩いたら漕ぐことができる場所まで辿り着くのではなく、少し漕いだら歩かなきゃいけないところまで辿り着くのだ。噂の”撃沈カーブ”も、水があまりにも無いため、挑戦するどころかカヌーに乗って超えることが不可能だった。とにかく歩く。人生楽ありゃ苦もあるさ・・・なんていう歌は間違いだと思った。
「苦ばかりだよ。黄門様。」
勝手に黄門様をやり玉に挙げながらも、仕方ないので歩き続ける。
♪泣くのがいやな〜ら、さ〜あ、あるけ〜・・・・
この後全行程10キロ、その半分以上、浅瀬の中を歩く羽目になるのだ。ゴール地点に車が置いてあり、途中でリタイアしたくてもそこまでは行かなくちゃいけない。経験したことのある人ならすぐわかる事なのだが、浅瀬を歩くというのは、普通に道を歩くよりも抵抗が大きくてずっと体力を消耗する。普段から運動不足で超軟弱体質の俺はすぐに筋肉痛が襲ってきた。フラフラしながらなんとか体を前に進めるだけ。ああ・・・どこがお気楽ツアーなんだ。だまされたぁ!!
あからさまに嫌そうな表情で歩いていた俺を隊長が激励する。 「イシカワくん!がんばって歩くんだ!」
なんだかこの時ばかりは隊長が星一徹に見えてくる・・・。
チーム鮫の鉄砲玉として普段非常に威勢のいい土居隊員も今日はまるで元気が無い。土居隊員のフネはタンデム艇(二人乗り)だ。タンデム艇の良い所は、まず、オネーチャンを誘えること、そして最近になってわかったことだが、非常に安定感があること。その長さを生かして、少々の瀬なら余裕で超えられるのだ。でもここには瀬なんて無い!もちろんオネーチャンもいない。意〜味な〜いじゃ〜ん!さらに言えば、俺たちの乗っているスキップジャックよりずっと重いのだ。思いフネを引いて黙々と水の中を歩む土居隊員の苦痛が痛いほど伝わってくる。

今回の予定ルートの半分も通過していないところに大きな堰がある。もちろんここもポーテージ。
「ちょっと私ここで終わりにします。」
土居隊員はここで途中リタイアした。仕方ないよ。君はよくがんばった。おそらく君は、・・・
<可愛いオネーチャンと二人でフネに乗り>
 →<ジェットコースター気分で瀬を次々とクリアー>
  →<青空の下高らかに笑う>
・・・という理想のカヤックライフを描いていたことであろう。だけど君の描いていたものはここには無い。あるのはただただ敵地から黙々と敗走するがごとく、消沈しきった軍隊の行進のみである。
「三千円ぽっきりヨ」と誘われてお店入ってみたら、怖〜いお兄さんが出てきて財布をスッカラカンにされて帰らされるようなものだ。ちょっと違うか?
我々訓練中の軍隊がゴール地点に辿り着いたのは、すっかり陽も沈んだ後、もう9時近くになっていた。
俺はゴール近くに来たところで、完全に言うことを聞かなくなった筋肉でフネから降りようとした時バランスを崩し疎沈。ああ、俺、何しに来たのかなぁ。
みんな疲れ果てたためか会話も少なめだ。
こうして超体育会系のカヌーツアーは幕を閉じた。その日の帰り道、俺は思った。
「こんな大変な遊び、二度と来るかよ。」

しかし翌週、自分でも全く理解できない感情が沸いてきた。
「ああ、また川に行きたいなぁ。」

今回の教訓: 「常に水量は気にするべし。」