活動記録其の3・西表島・仲間川編
文:隊長
2000年9月15日〜18日
初の海外(といっても国内)ツアー!
チーム“鮫”西表島・仲間川でジャングルに狂喜する
今回のMAP

 2000年9月某日。名古屋カヌーチーム“鮫”は初の海外(本州の外、の意)に出発した。行き先はラスティック伊藤隊員の手引きにより、沖縄・南西諸島に浮かぶ熱帯ジャングル満載の秘境「西表島」である。参加メンバーはオレ(隊長)、撃沈王イチロー隊員、ラスティック伊藤隊員の3名であった。
一日目は単なる移動日であったため、日も暮れた石垣空港に着いた我々はホテルに荷をほどくと早速、夜の石垣市内へコンビニを求めて散策の旅に出た。我々は土地勘のない初めての街にも関わらず適当な方角へ向け、本能的にいくつかの角を曲がり、結局野生の勘で「コンビニではなく、深夜営業の雑貨屋」を発見し、無事夜食の買い物を済ませた。なぜかカヌー漕ぐ時になると牛乳が飲みたくなるオレ(隊長)が地元の石垣牛乳を買い求めたのは言うまでもない。
そして宿に戻った我々は迷惑にも、それからやっとガイドブックなどを比較検討しながら翌日のカヌーツアーの申し込みの電話を掛けたのだった。
「前日の夜にイキナリ予約だなんて、なんて迷惑なヤツらだろう」と自己反省したのはこれまた言うまでもない。

 翌日、“制服”アロハシャツに身を固めた我々は、秘境・西表島の東南にある大原港にいた。ツアーを申し込んだのはマリンレジャー金盛の「仲間川カヌーツアー」である。しかし天気は雨こそ降っていないものの、降っててもおかしくないような曇天。しかもイキナリカヌーではなく、竹富町が作ったという農地のまっただ中にある「展望台から仲間川を見る」という観光に連れていかれ、ニッコリ笑った記念写真など撮ってしまっていた。

 その後仲間川の船付き場に戻った我々はやっとパドルを渡され、とりあえず陸上でパドルの使い方などを教わる。完全に初心者扱いである。でもその通りだった。
 何しろリジッドタイプのカヤックに乗ること自体が3人とも初体験である。だってインフレータブルカヤックのチームだし。 船にカヤックを積み、両側がうっそうとしたジャングルに囲まれる川を上流へと遡った我々は、途中で世にも珍しいサキシマスオウの巨大な「板状根」の観光などしつつエントリーポイントへ向かった。そこで生まれて初めて乗りこんだポリ艇はパーセプション(ブランド名だけはよく知っていたので素朴に感動)だった。
最初にカヤックに乗り移ったオレはあまりの嬉しさにはしゃぎすぎ、インストラクターの仲西さん(♀)から「何じゃコイツ」という冷ややかな視線を送られていた。続いてラスティック伊藤隊員、撃沈王イチロー隊員がエントリー。

 そこからさらに上流へ向けてのカヤックツーリングが始まったが、ちょっとした意地がキッカケでそれはインストラクターの仲西さんまで巻き込んだ体育会的な根性の早漕ぎ合戦となってしまう。
 はしゃぎにはしゃいで漕ぎまくる撃沈王イチロー隊員。無表情だが、パドルの感触を確かめるように時に黙々と、時に西表島のカヌー事情から仲西さんの個人情報までを聞き出しつつ漕ぐラスティック伊藤隊員。仲西さんはさすがにインストラクターだけあって漕ぎ慣れており、あまり力が入っていないように見えるがスピードは結構早い。正直言ってついて行くのが精一杯であった。
「初めての人ってすぐ漕ぎ疲れるから、進むのが遅くなっていつも時間かかるんですよー。でも今日はいいみたいですね」
という仲西さんの言葉に
「フッ、当たり前さっ。何しろオレたちは名古屋カヌーチーム“鮫”なのだ!」と思いつつ、そんなコトはおくびにも出さず(だって恥ずかしーし)、我々はさも「こんなの軽いさっ」って顔をしながら(ジツは「遅い」と思われるのがイヤで必死に漕いでたんだけど)上流を目指して着々とパドルを進めていた。

仲間川は我々が船からエントリーした中流域は満潮のためか水がいまいち濁っていたが、上流に行くに従ってスゴイ勢いで澄みはじめ、10分も漕ぐと下はかなり深いにも関わらず、バカでかい魚がウヨウヨ泳いで行くのが見えるほど素晴らしい透明度へと変貌を遂げていた。
ちょうど上流へ向かう午前中が満潮で、川を下る午後からは潮が引いていくというステキなタイミングの日に行った我々はかなりツイていたに違いない。普通ならここまでは行けないってゆーポイントまで漕ぎ進み、昼食タイムとなった。
 余談だが釣り道具か投げ網でも持っていれば、昼メシのおかずになる焼き魚の原料は非常に豊富に手に入れることが出来たに違いない。西表の自然は、人間にも動物や魚たちにも、極めて潤沢な恵みを与えてくれそうに思われた。
昼食をとる間にも水位はみるみる下がり、こんな上流でも潮の出入りが水位に相当影響を与えていることが目に見えて分かる。今度はダウンリバーである。漕ぎ上がってきたところを漕ぎ下るわけだが、体育会系競争で少しヘバっていたのと、引いていく潮と川本来の流れがあったのとで、我々はそれほど必死こいて漕ぐこともなく、わりとラクチンな川下りを楽しむことができた。
 仲間川はパーフェクトなジャングルの中にある。水際には熱帯で、海水と淡水が入り交じるいわゆる「汽水域」特有の植物、マングローブが密生している。もちろん人工物など川の中の、観光船のための指標ぐらいしか存在せず、こんな天気の悪い日だからなのか、カヌーも我々以外にはまったく見かけない。プライベートビーチならぬ「プライベートリバー」といっても過言ではない、貸し切り状態の大自然の中を我々は漕ぎ下っていった。
 時折聞こえる「ギャアギャア」という、熱帯特有の得体の知れない鳥の声を除いては我々が立てるパドルの水音以外、まったく完全に何も聞こえない、本当の静寂の世界である。日頃都会に暮らす人間にとって、極度に音の少ない世界は、かなり不安をあおるものである。少し先を行ったり、また遅れたりして、他のメンバーが見えなくなると世界に自分しかいないような錯覚に襲われてしまう。
 途中、展望台に登るためフネを降りる。ジャングルの急な山道を登ったところにある展望台からは、曇天の下、蛇行する仲間川が見えた。その向こうにはジャングルがえんえんと続いていた。(続く)

今回の教訓: 「体験カヌーの予約はお早めに!」