活動記録其の4・西表島シーカヤック編
文:隊長
2000年9月15日〜18日
初の海外(といっても国内)ツアー!
西表島・シーカヤックで怒られる
今回のMAP

 2000年9月某日。名古屋カヌーチーム“鮫”は初の海外(本州の外、の意)ツアーに出発した。行き先はラスティック伊藤隊員の手引きにより、沖縄・南西諸島に浮かぶ熱帯ジャングル満載の秘境「西表島」である。参加メンバーはオレ(隊長)、撃沈王イチロー隊員、ラスティック伊藤隊員の3名であった。

 沖縄・西表カヌーツアー、一日目は移動日、二日目は仲間川のジャングルリバーツーリングを満喫した我々は三日目、ついにこれまたチーム“鮫”史上、初のシーカヤックツアーへと挑戦した。
前回(前日)の教訓をまったく活かすことなく、我々はまたしても前日の夜、しかも深夜11時を過ぎてからシーカヤックをやらせてくれるツアーショップを探し始めるという暴挙に出た。あげく、0時近くなってから「S」というショップにTEL。ラスティック伊藤隊員いわく「方言がキツくてよく聞き取れない」と一度は切った電話口の相手に、結局撃沈王イチロー隊員が再度TEL。夜中にうっとうしい電話をしてきたあげく、「石垣島を10時に出るので10:35ぐらいになります」などという勝手な注文に怒っていると思われるショップの方にびびりつつも予約を済ませた我々は、まだ見ぬシーカヤックに夢を膨らませつつ眠りについた。が、しかしイチロー隊員は突如オリンピックおたくと化したが如く、独りホテルのテレビにかじりつきシドニー五輪の結果を遅くまでチェックしていた(らしい)。


 翌日、今度は昨日とうってかわってドピーカンの晴天となった紫外線降り注ぐ南国の空のもと、またしてもド派手なアロハを着て西表島・大原港に着いた我々を待っていたのは、最近あまり見かけなくなったスバル・ドミンゴを駆りカヌー犬ならぬ“接待犬”と称する犬「ブビ」(♀)を伴ったショップ「S」のご主人、関東出身・西表に住んで2年というU氏であった。昨晩、ラスティック伊藤隊員が「方言キツい」と思ったのは方言でなく、夜遅くて不機嫌だったのでは? という不吉な推理がアタマをよぎる。
 早速ショップ兼U氏の自宅へ行き、保険などの書類に記入した後、庭にあったシットオントップタイプのシーカヤック“マリブオーシャンカヤックU”3艇をけん引式のキャリアに積んで、我々は西表南岸・南風見、田ノ浜海岸へと出かけた。
ビーチはひとっ子ひとりいない、またしても貸し切り状態の今度こそ文字通り“プライベートビーチ”であった。重たいシーカヤック(マジであんなに重いとは思っていなかった)を二人がかりで一艇ずつ波打ち際まで運び、ジャンケンの結果オレ(隊長)とラスティック伊藤隊員が二人艇、撃沈王イチロー隊員が一人艇、U氏が「ブビ」と“二人”で一人艇という三艇に乗り込み、出発することになった。空と海はどこまでも青く、白い雲が眼にまぶしかった。
本当はパナリ島(新城島)か西表島の北にあるバラス島(バラス=サンゴのかけら)へ行きたかったのだが、今回は申し込みが遅かったためパナリへ行くツアーはどこも予約でいっぱいであった。また北岸にあるバラス島ツアーは海がまだ荒れており、予約していたとしても「今日辺りは中止だろ」というU氏の言葉を気休めに、我々はおとなしく南岸の、しかも環礁の内側の超安全なところをゆったり漕ぐことにした。
初めてのシーカヤックは予想外な重さのためか、はたまた周りが海で比較対象物が遠いせいか、漕いでも漕いでもあまり進んだような気がしないモノであった。
「いまいちスピード感がないなぁ」というのが正直なところだったが、オレは昨日の体育会系漕ぎ漕ぎレースに疲れていたので、澄んだ海の風景を楽しみながらゆったり漕ぐことにした。しかし、撃沈王イチロー隊員は昨日の不毛なレース&オリンピック寝不足のクセしてミョーにハイテンションでニタニタ笑いながら勢い良く漕いでいる。会社で何かイヤなことでもあったのだろうか。そういえば「忙しいのに部長め、不倫旅行に行きやがって!」とか言ってたような...。しかしガンバって漕いでいるワリにはあまり進んでいないようだ。

 オレとラスティック伊藤隊員のフネはそんなに根性出して漕いだわけでもないが、いつのまにかインストラクターU氏すら後方に置き去ってしまうほど進んでいた。U氏は「ブビ」を前に載せて普通に漕いでいるが、港で会って以来、家の中でも外さなかったサングラスのせいで今一つ表情が読めない。やたらとマリンパックに入ったデジカメらしきもので我々の写真を撮っているのが気にかかる...。
 そうこうするうちに、スタート時にU氏が示した目標の岩に結構あっさりと着いてしまう。U氏は
「じゃあもうちょっと先まで行こうか」と、あっさり目標を伸ばしてくれた。
 しかし前日の疲れがまだ残っている我々が、昼飯のことを考え始めるのにそれから大した時間はかからなかった。結局その後しばらくして上陸。波打ち際から20mも行かないところまで生い茂っている熱帯植物の林の中に分け入り、U氏の持参したお弁当を広げて食べる。U氏はこんな木陰でもやはりサングラスを外さない。ラスティック伊藤隊員の必殺・個人情報根堀葉堀攻撃にもなかなか乗ってこない模様だ。ひょっとしてやはり昨晩電話したときはもう寝ていて、電話で叩き起こされたため怒っているのだろうか? などといらぬ心配がアタマをよぎるが、浜に居た野犬(♂)とラブラブモードではしゃぎまわる「ブビ」の元気さに圧倒され、なんだかしみじみと話をしているような雰囲気では無くなる。
 休憩もそこそこにオレはさっきまで撃沈王イチロー隊員がカラ元気で息切れしながら漕いでいた一人艇に乗ると、颯爽と海へ漕ぎ出した。重いシーカヤックといえども、そこはやはり一人艇である。オレはグイグイと、透き通った水が気持ちいい珊瑚礁の浅瀬を沖に向かって漕いでいった。 風も爽快、海も爽快、そしてなによりオレの気分が爽快であった。それを見て、浜で「ブビ」たちと戯れていた撃沈王イチロー隊員とラスティック伊藤隊員も二人艇に乗り、負けじと追いかけてきた。
 漕ぎに漕いだオレは一気に珊瑚礁の外環近くまで到達していた。しかしここから先はちょっとこの重たいシットオントップカヤックでは、出たが最後流されたら戻ってこられないようにも思えた。そこで漕ぐのをやめ、波に揺られながら遠い水平線をぼんやりと眺めていた。波が珊瑚礁に当たってハジける音と風の音、それ以外は何もない、またしても大自然のまっただ中にオレはひとり座っていた。
「ああぁ、キモチいぃ〜」
 と、後から追ってきた撃沈王イチロー隊員とラスティック伊藤隊員組のマリブオーシャンカヤック二人艇がオレを追い抜かしていった。しかし彼らもさすがに外海に出るのはヤバイと思ったのか、適当な所で漕ぐのをやめ、やはり遠く水平線を見ながらフネに座ったまま波に揺られはじめた。
 その、二人して同じく、顔をまっすぐ海の彼方に向けたその様は、さながらあの、“地球のへそ”イースター島のモアイ像の如くである。その姿の余りの酷似に唖然とするオレの気持ちを知ってか知らずか、彼らのモアイ・パフォーマンスは続く。じっと海の彼方を見つめるその姿勢には、ある種の神々しささえ感じられた。その時我々は西表の荘厳な大自然の海に畏怖を感じていたのかもしれない。いや、「見とれていた」というのが、より正確な表現だったのかもしれない。
 と、その時、オレの遥か後方からU氏の怒声が聞こえてきた。
「コラァ〜! 危なーいっ! それ以上外行くなぁー!!」
 よく見ると彼らのフネは、漕いではいないものの、波に乗せられてだんだんと外海方向へと移動し、気がつくと外環が目の前まで迫っている。危うしモアイ軍団!

U氏は「ブビ」を載せたままスゴイ勢いでモアイ軍団の所まで漕いで行き、何事かオコゴトを垂れているようだ。二人ははなんだか先生に怒られた小学一年生のように「バツが悪い」といった顔でしょんぼりしていた。
その後カヤックを漕ぎながらジャングルから流れ落ちる滝を見つけた我々は勝手に上陸し、またしてもU氏の
「リーダーの言うことを聞かないで勝手なことをしないように」
というオコゴトを頂くことになる。
 そしてこれらのバチが当たったのか、午後になった帰りは潮が引きはじめ(よく考えたら昨日もそうだった)、環礁の中はどんどん浅くなっていったため、結局かなりの距離をシーカヤックを曳いて歩くハメになった我々なのであった。

 後日、ラスティック伊藤隊員から連絡があった。
「ボクらの写真、あのショップのホームページに勝手にアップされてますよ!」
 そーいえばあの撮ってた写真、用途も何も聞かされてなかったな...。

今回の教訓: 「だから体験カヌーの予約はお早めに!!
 ってゆーか、インストラクターさんの言うことは
 ちゃんと聞こう!」