活動記録其の33・板取川〜長良川編part4
文:隊長
2002年3月31日
伝説、敗れ去る!? 幻の急流・板取川に不沈艦沈む!
 〜そして隊長一年越しのリベンジは!?〜
「くそー。シャーク3号(セルフベイラー付き)を手に入れたら覚えてろよ!」

 これは2001年3月25日、初めて挑んだ長良川・二股の瀬でシャーク2号(GUMOTEX・Jr.)で人生初の撃沈をした後のオレ(隊長)のセリフである。

 チーム“鮫”シーズン'02、早くも第4戦となる今回は3月31日(日)、日本を代表する清流、岐阜県・長良川の中流、立花橋の300mほど川下の駐車場からスタートするハズだった(つまり前回と同じという“リベンジ”コース)。
 しかし前々日夜、かなり降っていた雨を見てオレはあるコトを閃いていた。
「そうだ、板取川行こう!」

 板取川は長良川最大の支流と言われ、今回予定しているコースのスタート直後の所で合流している。長良川の他の支流・武儀川でトロけていたチーム“鮫”は、この板取川も以前に下ろうと画策したことはあったのだが、水量が少なくて断念した経緯がある(長良川編Partー3参照)。それ以外にも何度かイシカワ顧問やオレがスカウティングには来ていたが、いつも水量が少なく、イシカワ顧問が見て回った時は
「ほぼ静水の所でカナディアンの人が遊んでたぐらいでしたよ」
とのことだった。
実際、ホームページをあちこち見ても板取川を下ったという記録は極めて少なく、しかも
「水量が少なくて下れない」
とか、
「水量ががあっても瀬はせいぜい1.5級」
などとあり、あまりたいした川ではなく、実際、ほとんど下れない所、という印象であった。
なぜそれが
「長良川最大の支流」
などと呼ばれるのか、オレは正直言って理解できないでいた。
 しかしこれだけ降った後なら、いくら通常は浅い川でもなんとか行けるハズと、そう確信したオレは今回のツアーを決定する。そして...。

 午前約11時。合流ポイントより約5km上流・「御手洗」付近のカッツーンと晴れた川原には、今日が昨年・2001年唯一の撃沈のリベンジとなるオレと、チーム“鮫”の“アンブレイカブル”シミズ隊員、“紅一点のチャレンジャー”うーやん隊員、そして先日の木曽川ツアー後正式入隊を宣言した“長良川で産湯をつかった男”sakuzo新入隊員の4名が立っていた。
 今日はここからエントリーして板取川を下り、長良川に入ってあの“二股の瀬”を抜け、鮎の瀬橋でゴールという約12kmのコースだ。 

 今日の板取川は前回断念した時とは比べものにならないほど豊富な水を湛えている。いや、湛えているなんてナマやさしいものではなく、
モノ凄い勢いで流れていた。
 オレは先頭を切ってエントリーし、すぐ目の前にある早瀬を爽快に下り降りる。100mほどの距離をウェーブと闘いながら抜けると、オレはいきなり何度もアタマっから水を被り、すっかりずぶ濡れになってしまっていた。しかし今日は天気も良く暑いくらいなので、とても気持ちはいい。だが、ちょっとしたエディーに入って後を振り返ったオレは、そこで信じられない光景を目にすることになる。

 その瀬の一番最後の落ち込みで、オレに続いてエントリーしてきた“アンブレイカブル”シミズ隊員の“不沈艦・飛騨之守2”スターンズ・レイカーソロがウェーブに乗り上げ、少し斜め向きになったと思いきやすぐ下のホールの返し波に突き上げられて、そのグレーの腹を見せながらへさきを左に捻りつつ沈んでいったのだ。
「撃沈ー!!」
 チーム“鮫”No.1の使い手“アンブレイカブル”として、デビュー以来無沈記録を更新し続けてきたシミズ隊員の初撃沈である。しかもエントリー後
わずか100m、板取川の挨拶代わりの早瀬にあっけなく沈められてしまったのだ。シミズ隊員はフネに掴まるコトもできず、また、パドルまで流出させて水の中をもがきながら流されてきている。流れが速く、なかなか思うように岸にはたどり着けないようだ。


 後から下ってきたうーやん隊員に助けられ、3・40mほど流された所のエディーで、なんとか右岸の岩場に這い上がるシミズ隊員。フネはうー隊員が、パドルはオレが回収していた。

 伝説の終わりとは本当にあっけないものである。今までノー沈を勲章とし、制覇した川から上がった後は川と自分に敬意を表して極上の葉巻を一本フカす、という「川原のダンディ」シミズ隊員が、今は見る影もなくズブ濡れになり
寒さに震えているのだ。
「水が冷たくて心臓が止まりそうでした!」
というシミズ隊員の言葉でもわかるように、今日は天気がいいとは言え、やはり山あいから流れ出してきたばかりの水は、まだシンシンと冷たい。そしてこの瀬は恒例のチーム“鮫”命名委員会(ってゆーか、オレ)によりまたしても
「アンブレイカブルの瀬」などと勝手に名付けられたのであった。
 この撃沈でシミズ隊員は相当なトラウマを負った模様である。次の瀬の音が聞こえてくると
「こっ、コワい〜!」
といきなりビビりだしてしまう。ファルトボート時代を含め、足かけ9年というチーム“鮫”最長のカヌー・キャリアを誇るシミズ隊員の人生初撃沈なのである。そのショックはハンパではないようだ。

 普段の板取川は、ジツは板取川ではないのかも知れない。今、川の表情は、水が少ない時のそれとはまるで別の川のように生気がみなぎり、まるで富士川のようにパワフルなウェーブと強力な瀬を作り出している。これが幻の、いや、本当の“長良川最大の支流”板取川の姿なのだろう。
 しばらく行く間に次から次へと現れる瀬は、平均して言えば、あの根尾川とも同等? と思えるくらいのパワーを持っている。しかし根尾川と違うのは例の“発電所の瀬”のような超・強力な、アタマひとつ抜き出た瀬が無いことである。

 
...と思ったのも束の間、流れが左岸に寄って見えなくなっている所から轟音が響いてくる。我々の間にただならぬ緊張が走った。
「これはちょっと見た方が」
と、前回の木曽川で実は長良川上流をテリトリーとする上級者であるコトが判明したsakuzo新入隊員が言う。確かになんだか強烈にヤバそうな音が轟いてきていた。シミズ隊員は例によって
「怖いー!」
と音に怯え、今はもう“アンブレイカブル”だった面影すら残っていない。

 岸に寄せ、スカウティングしてみると
「!!!......」
 流れは左岸に向けてかなりな斜度と豊富すぎる水量が作り出す豪快な早瀬になっており、左岸の崖岩を削り取らんばかりの勢いで猛り狂う波が大きく右カーブを描いている。しかもその途中の一番都合の悪い所には波高約1m、直下のホール約1mで、
合計約2mという我々から見たらウソのような落差の瀬がパックリと口を開いていた。
「正々堂々とポーテージ!!」
オレは即座に決定を下した。間違いなく過去に見たこと無いレベルの瀬である。まさに“人生最大の瀬・Part−2”と言えよう。幻の急流・板取川に現れた文字通り“幻の瀬”だった。
 チーム“鮫”の実力では、10人突っ込んだら10人全員が確実に死ねそうな、地獄のブラックホールのような瀬である。
 尻尾を巻いて超・内側の超・
チキンコースをコソコソ下った我々
「ヤバかった〜」
と、ムネを撫で下ろすと共に板取川の“幻”パワーに、もはや恐怖を通り越して畏怖すら感じ、すでに崇めて、祈って、奉りたいくらいの気分になっていた。

 その後、長瀬橋手前の堰堤を咲き誇る桜を横目に、ひいひい言いながらフネを担いでポーテージした我々は、そこからいい感じのウェーブと調子に乗りつつ(シミズ隊員は除く)長良川に合流した。

   
 ここで、人生最大の瀬を更新してしまい半ばヤケクソになっていたオレは、すでに前方に見え始めていた仇、憎っくき“二股の瀬”を前に、自殺行為とも言える
掟破りの暴言を吐く。
「みなさーん、ちょっと言っちゃってもいーですかぁ? “二股の瀬”がナンボのもんじゃい! 
オレ、最強ー!!
ついに言ってしまった。今までイシカワ顧問やアビルマン隊員を、得意の絶頂から奈落のズンドコへと叩き落としてきたアノ、忌まわしいNGワードを口にしてしまったのだ。
 しかし先ほどの“幻の瀬”を見てしまったオレにとっては、前回より増水してパワーアップしてはいても、もう『たかが』“二股の瀬”なのである。なおかつ、来る途中ワザワザ“二股の瀬”をスカウティングしていたオレには、その時すでに勝算があった。

 今日の長良川は先日来の雨が上がってまだ2日のため、かつて見たこと無いほど増水している。長良川のほとりに生家があり、“長良川で産湯をつかった”というsakuzo新入隊員ですら、
 「今日は水量多いなー。こんなに多いコトは滅多に無いですよ」
というほどである。すなわち
水量↑UP、流速↑UP、パワー↑UPでも唯一、瀬の落差は↓DOWNなのだ。
 すなわち轟音をたてて、シェイクした炭酸飲料の口を開けたかのように下から吹き上げている豪快な返し波さえパワーでブチ抜ければ、落差がない分だけクリアできる確率は高いと思っていたのだ。前回は3級オーバーの落差だったものが今回は3級弱くらいの落差に縮んでいる(若干、希望的観測含)のだ。
 そして前回のオレとは腹筋のデキも違い、緩いとはいえ20箇所以上の川を下ってきた経験(笑)と、そして何より心強い相棒・“シャーク3号”スターンズ・リバーランナーがあるのだ。
「今日のポーテージはあり得ない」
オレは撃沈覚悟でそう固くココロに誓っていた。
シミズ隊員は
「どーしよーかなー、二股の左(比較的安全コース)から行こうかなー」
とビビってしまっていたが、オレに続きうー隊員、sakuzo新入隊員が右の“二股の瀬”に向かうのを見て、ついてくる気になったようだ。これまたジツはスカウティング時に、増水のため瀬の一番左側には激浅だが波すらほとんど立っていないスーパー・チキンコースができており、瀬を避けて下ることも可能になっているのを我々は発見していた。

 先頭でど真ん中に突っ込むオレ。近づいてくる“二股の瀬”。全力でパドリングし、スピードが最高潮に達した時巨大なホールとウェーブが!
「デケェェェー!!」
絶叫しながら水に突っ込むが、やはり落差が少ない。昨年はへさきを持ち上げられてひっくり返された巨大な返し波にズバーンッと突っ込む。波は砕け散り、オレは突破に成功した。
「ザマーミロ! この野郎!」
またしてもオレは叫んでいた。これで「最強=NGワード」伝説は、オレとシャーク3号の前にもろくも崩れ去ったのだ。
 後で聞くと、この時のオレの一連の絶叫は後方のシミズ隊員に聞こえており、何を言っているのかよく聞き取れなかったシミズ隊員は、オレが撃沈して
悲鳴と共に波の下に沈んだ(落差があるので前方がどうなっているか近づかないとよく見えない)と思って恐怖したらしい。それでスーパー・チキンルートに向かってしまった、今日は気弱なシミズ隊員であった。

 そしてオレの後はやはりこの人、“紅一点、しかしチャレンジャー”のうーやん隊員の登場である。オレのルートより少し右を衝いたうー隊員だが、下から吹き上がるような返し波にカスり、バランスを崩して撃沈。一瞬波下に消えるも、パドルも離さずすぐフネにしがみつき、流されてくる途中で無事最乗艇に成功する。撃沈した時に少し水を飲んだそうだが、さすがである。根尾川“発電所の瀬”と同じパターンだ。


 結局シミズ隊員はチキンルートを抜け、sakuzo新入隊員は
「鍋と荷物が心配だから」
とのことで、それらを岸に降ろしてからチャレンジ。そして“二股の瀬”を無事に突破したのである。こちらもさすがであった。2回目にして、すでにチーム“鮫”のテクニカル・バックボーンと言ってもよいほどの腕と貢献度である。

 その後すぐ中洲に上陸した我々は、4人で7人前の味噌ラーメンを平らげ、再び今度は一転して小雨の降り始めた長良川に出た。

 美濃橋から先は何でもないコースだと思っていたが、今日の長良川は至る所に増水のためウェーブが出来ており、ゴールまでの間かなり楽しむことができた。

 それにしても今日の増水した長良川、そして本来の姿なのか幻なのか、とにかく凄まじい急流パワーをイヤと言うほど見せつけてくれた板取川、両方とももう一度来てみたい川である。

  しかしシミズ隊員は後半の長良川でこそ少し元気を取り戻し、
「“二股の瀬”はリベンジに来たい」
などと言ってはいたが、前半の板取川には
「もう二度と来たくないです」
と言うなど、徹底的にトラウマとなってしまったようである。
 シミズ隊員の“アンブレイカブル”「無沈」伝説は板取川の藻屑となって幻と消え、「NGワード」伝説はオレが昨年の予告通りシャーク3号でリベンジを果たすことにより、これまた幻想となって敗れ去った。今日は二つの川を下り、そこで二つの伝説が消えていったのだ。

伝説、それはいつも儚い(意味不明)...。

 上陸後、シミズ隊員は恒例の葉巻もフカさず、遠くを見るような目で独り嘆いていた。
「あぁ、板取川に
処女を奪われた...

今回の教訓: 伝説は破られるためにある!」