活動記録其の14・気田川編
文:隊長
2001年6月25日
合い言葉は“It's MONDAY!”
チーム“鮫”気田川の日常にどっぷり浸かる!!
 日本列島が全国的に初夏なのに真夏のような暑さに包まれた6月25日(月)午前約11時、平日にもかかわらず、我々は東名高速道路の潮風吹く浜名湖サービスエリアに集結していた。2001年の記念すべき10回目のツアーは、静岡県まで足を伸ばし、天竜川の支流「気田川(けたがわ)」である。
 気田川を知ったのはオレが天竜川遠征を企てていた2000年末、現地・春野町出身のデザイナーさんに
「カヌーなら気田川」
と聞いたのが最初であった。気田川は結構有名なカヌーフィールドらしいのだが、6月に入ってリバーツーリングが、より心地よい季節になるタイミングに合わせたようにイジワルク鮎釣りが解禁されるため、釣り師が激増して下りにくくなってしまうと聞いていた。そこで平日に休みがとれたのをいいことに、突然の気田川ツアーを決定したのはなんと前日の夜である(ホントは天竜川に行こうと思っていたけど、梅雨前線が北上して長野県に大量の雨を降らせたため、
「天竜川行ったら死にそう」
という判断から急遽行き先を変更したという、やっぱり“鰯”な“鮫”なのだった)。参加メンバーはオレ(隊長)、土居隊員、イシカワ顧問、そしてラスティック伊藤隊員という、どーして平日なのにこんなに集まれるの?という4名である。

 実はチーム“鮫”の活動には「公式活動」と「非公式活動」とがある。「公式活動」は「正隊員2名以上の参加と主催によるリバーツーリング」を指し、それ以外は全て「非公式」となるのだ。その「非公式活動」で以前、イシカワ顧問が某ショップのツアーで気田川を下っていた。そのため今回はエントリーポイントからアウトポイントの選定、途中の瀬の状況までもがすべて事前にわかっているのに「初めての川」というフシギな状況であった。


 黄色く黄河のように濁り、長野地方への降雨量の凄さを物語る天竜川沿いを我々は北上した。支流・気田川との合流点は、黄色い天竜川へ横から青い気田川が乱入しているようなフシギな光景であった。そこから約15kmほど上流まで遡り、我々は秋葉神社下の川原でフネをセットアップし始めた。
 横では消防隊が放水訓練の準備をしている。それを見て
「ああ、月曜だなぁ」
と、しみじみ思う。
 川べりに寄って見てみると、気田川は前日までの雨のせいか少々濁っているものの、かなり水質は良さそうである。さらに天気も良く、気温は間違いなく30℃を越えている。今日のリバーツーリングはかなり楽しくなりそうな予感がする。そんなシチュエーションに、オレはすでにウキウキしていた。
 エントリーポイントの目の前に、いきなり流れが二股になっているところがあった。みんなは本流のように見える方を行くが、オレだけは左に大きく流れている小さな支流のような流れの方を選んだ。大きく弧を描いたそのコースは小岩が多く、また岸から張り出した木の枝が下を通るオレにリンボーダンス態勢を強いるという過酷な流れだった。のけぞったオレの鼻先を枝葉がかすめる。しかし流れは結構早く、そんな姿勢ながらもパドリングしないと小岩にぶつかってしまう。小刻みにパドルを入れて小さな瀬を次々よけていく。波がはじけて顔に水がかかるポイントがいくつかあった。そのわずか50m足らずの間に結構楽しむことが出来たオレは、本流と合流した時、すでにこの川が好きになっていた

 幾分開けた山間を流れる気田川は右に左に蛇行を繰り返す。またその中に適度に2級程度の瀬を含むという、ロケーション・水質と共に、まさに我が“鮫”に最適の川であった。
 スタート後しばらく行くと、「初心者のポリ艇なら、かなりの確率で沈する」という“直角カーブ”がある。流れが少し狭まり、結構速くなってそのまま先の岩肌に命中、右と左(左は溜まりになっていて、流れは右)に別れているところだ。が、我々のインフレータブルカヤックは安定度バツグンで、ビクともしない。昨年の“員弁川・魔の撃沈カーブ”に比べれば川幅が全然広いので、コースも余裕で選択できる。イシカワ顧問に続いて、ラスティック伊藤隊員も新艇スターンズ・レイカータンデム“RUSTIC−U”がバツグンの安定性を発揮して、まったく普通にクリア。続いて土居隊員も、愛艇・ヘリオスを水船にしながらも余裕のクリア。最後に突入したオレは波の上で水上ドリフトをカマして右ターンする。水量が多いため、流れにかなりのパワーを感じたが、結局難なくクリアしてしまった。誰かの撃沈を期待して左の溜まりに入ってカメラを構えていたイシカワ顧問が、残念そうに流れを横切って追いついてくる。
「なぁんだ。いい写真が撮れると思ったのに。」
ひょっとして、ちょっとだけレベルが上がったのかチーム“鮫”!?


 気田川は“癒し系”でもあり“瀬のスリル”もある、バランスのいい川である。蛇行するコースが、フネをコントロールする楽しさを満喫させてくれる。
途中の川原の工事現場では重機が大きな音をたてて動き、それも「月曜日」ということを強調するのに一役かってくれた。「月曜日」という開放感と「月曜日」であるため、鮎釣りのシーズンであるにもかかわらず釣り師を3人見ただけという、気田川“独り占め”の気持ちよさが相まって、我々はまたしてもしまりのない、弛みきった笑顔で漕いでいた。もちろん他のカヌーもまったくいないのだ。最高である。弛みきった顔で瀬に突っ込み、水しぶきを浴び、1mぐらいある水の壁を突き抜ける。不思議と今回は大きな瀬がきても「怖い」といった感覚はなく、「ベツに撃沈してもいいや」って感じで、オレは弛みきった顔のまま瀬に入っていっていた。そんな、今となっては自分でも理解出来ない不思議な感覚が、その時オレを包んでいた。
 真夏を思わせる暑い太陽のもと、清冽な水の中でスリリングにカヌーを楽しむということが、どれほど爽快で、どれほど贅沢なことなのかはこうして体験してみないとわからないものであろう。遊園地で、作られたアトラクションにお金を払って、みんな均一の「安全なスリル」と予定調和的なエンターティメントを大勢で楽しむのとは、明らかに違う世界がそこにはあった。自然の作り出した川は、人知を越えたエンターティメントを今、我々だけに与えてくれているのだ。
あまりの心地よさに気が弛みすぎたのか、土居隊員とイシカワ顧問がそれぞれ一回づつ、なんでもない所でフネの横腹を小岩に引っかけ、疎沈しそうになっていた。こーゆー油断大敵な所がやっぱりまったり系カヌーチームである我らが“鮫”なのである。

 で、結局このコースの最後近くにあるというの“オーラスの瀬”も、どれがそれだかわからないうちにクリアしてしまい、まるで夢うつつのうちに全行程約13km、初の平日・気田川ツアーは無事終了した。我々が上陸したゴールの川原では、学校帰りの地元の中学生が数人、橋のたもとに自転車を止めて着替え、次々と川に飛び込んでいた。「平日」とはすなわち「日常」である。今日我々が見たものすべてが、「気田川の日常」なのだ。オレたちがいつも働いている「日常」と平行して、こんな「日常」もあるんだよなぁ...。そんなことを夕日に暮れていく西の空を見ながら考え、オレはもと来た道を運転して帰ったのだった。
 平日のリバーツーリングは、ただ「平日の休日」である、ということ以上の贅沢な時間を与えてくれるようだ。「一日」はどう使っても「一日」であるが、どう使うかによってその「価値」には大きな開きができる。そんな当たり前のことが、良く体感できた一日であった。

今回の教訓: 「釣り師の多い川で楽しみたければ、
 平日に行こう!」