活動記録其の23・北山川編
文:隊長
2001年9月2日
急流・北山川!…のまったりコースで隊長艇・シャーク3号破損!?
 チーム“鮫”シーズン'01、残す川もあとわずか(遠い所ばかり残った)となった9月2日(日)…の一日前の午後約11時30分、オレ(隊長)は和歌山県・熊野川を目指し、小雨降る国道23号線を西へ西へとひた走っていた。

  以前の大井川ツアーで「遠い所の日帰りツアーにはムリがある」と、学習した我々は今回初めて、前日夜・現地着、一泊しての川下りという作戦に出た。しかしこの強行ツアーの
行程が無謀と見えたのかにしお隊員、シミズ隊員が当日にキャンセル(イチロー隊員もドタキャンだが、「尻にデキモノにつき静養します」と、「どうやら痔になったらしいメール」を送ってきてのキャンセルなので仕方無い、としておこう)。
 結局オレの他の参加者は、まだ仕事をしているため、この後追っかけてくる予定のイシカワ顧問だけということになってしまっていた。危うく“独り鮫”となるところである。この二人のメンツは3月の長良川以来のことであるが、これから秋に向けて寒くなると同時に参加者も減ることが予想されるため、いきなりオレは隊長権限で名古屋カヌーチーム“鮫”十箇条の掟の“独り鮫の禁”を改正することを決意した。

改正「初めての川での“独り鮫”は禁止」
 
つまり一回行ったことある所はOKにしたのである。知ってて行くのだから完全に自己責任である。しかしコレこそが「個の発見」というものであろう(←最近野田イズムに感化されつつあるワタシ)。 で、23号から42号に入り三重県を横断、なんとか三重の西のはずれ・七里御浜に到達したのは当然のように日付も変わって午前約3時20分である。ここまで来れば和歌山も目の前で、これまた当然県境の熊野川も目の前だ。が、その時オレの体はすでに限界点に達していた。
 そこで予定集合場所&時間を「道の駅・瀞峡(どろきょう):8時」から「道の駅・七里御浜:8時」に変更することにし(だってどーせ2人だし)、「道の駅・七里御浜」に着くや、もう42号に入っているハズのイシカワ顧問に電話する。
 が、出ない。
 おそらく眠気醒ましに大音量で音楽でも聴きながら運転しているのだろう。仕方なくメールを送って寝ることにする。
 しかし車の寝心地はとっても悪く、まんじりともできないまま、ポジションを変えることを繰り返すオレ。
 うーん、しまった。こんなことならやっぱりもうちょっとがんばって熊野川まで行って、テント張ってシュラフで寝た方が良かった。と、後悔するがもうそんな気力も残っていなかったので、とりあえずシュラフだけ引っぱり出して被ってみた。

 ウトウトして気が付くと6時である。しかし天気が悪いせいか空は薄暗いままだ。そこで
二度寝する。またちょっとウトウトして「まだあんまり明るくならないなぁ」と時計を見ると9時6分! 意識を失った一瞬にかなりの時間が経っていたようだ。早速同じく七里御浜の道の駅・駐車場で眠っていたイシカワ顧問を電話で起こし、熊野川へ向かう。ここでもう既に1時間以上も予定が狂ってしまっているところが、やはり“鮫”なのだった。

 熊野川は和歌山県と三重県の県境を流れ、熊野灘に注いでいる大河である。少し遡ると十津川と北山川が合流しているポイントがあり、正確にはそこから下流が熊野川というらしかった(国土交通省では十津川も含めて“新宮川”と呼んでいるらしいが、そういう呼称を聞いたことがないので書類上だけのことのようだ)。
 スカウティングしてみると十津川はどっかで見たような黄土色の川になっていた。明治以降、上流の国有林を伐採しまくったため、雨が降るとすぐ黄色く濁る川になってしまったという。
 一方、上流は民有林ばっかりであんまり木を切らなかった北山川は、以前見た雨上がりの気田川くらいの碧色の流れとなっており、その二つの川の二色の水がブレンドされて行く様が合流ポイントの宮井の橋の上からよく見えた。しかしブレンドされているだけに熊野川は、より濁ってしまっているようにも見えたので、もっと上流からやることにする。

 本当は熊野川の標準的なコースはこの橋から少し下流のジェット船船着き場がある志古から、というのが普通らしい。イシカワ顧問の行きたがっていた赤木川もこの下流に流れ込んでいる。本によるとそれより下流でもスリリングな3級クラスの瀬が2〜3箇所あるということだった。しかしオレは上流の“瀞八丁”という景勝地に惹かれており、そこを通れる田戸からのコースでのエントリーを希望していた。相談の結果、結局田戸から合流手前の四滝までの約18kmということになる。ってコトは...そうなのだ、
「熊野川」の予定が「北山川」になってしまった。

 てなコトでいきなりツアー先を「熊野川→北山川」に変更した我々は、曲がりくねった、運転する事自体コワいよーな細い山道を通って、これまたジェット船の船着き場と、かの有名な「瀞ホテル」がある田戸へと辿りついた(←オヤジギャグ)。
 一泊なので早くエントリー出来ると思っていたのが予定変更&寝坊&モタモタで結局12時近くと、いつもとあまり変わらない時間になってしまう。駐車場から150m位ある所をひいひい言いながら崖下の川原までフネを降ろし、観光客が記念写真を撮っているのを横目にフネを膨らませるが、ここで事件が起こってしまった。
 なんとシャーク3号の重要なパーツである、フロアチューブを本体に留めるファスナーが壊れてしまったのだ。おかげで微妙に重心が高くなり、いまひとつ不安が残る。ジェット船の観光客向けにオープンしている川原のテント売店で、名物「目張り寿司」を購入してからエントリーする。この時点で約12時になっていた。

 さて、
北山川と言えば急流である。しかしそれは瀞八丁の手前までで、ここから先は碧色の水をたたえた静かな渓谷なのだ。一応流れているのだが、一見まったくの静水に見える所を漕いでいく。風もなく、鏡のようになった水面を切り裂いていくフネのへさき。はっきりしない曇天のため、よけいに幽玄&静寂の世界に見える。しかしジェット船が来るとその静寂は破られ、水面は波立ち、フネはウェーブに翻弄される。つっても大した波じゃないけどね。
 そしてこのジェット船は結構カヌーに気を使ってくれているらしい。水の上を警笛鳴らしながらブッ飛ばしてくるが、他のフネの側にくると大きな波が立たないように減速してくれるのだ。運転士(船長?)さんの中には川岸によけている我々に挨拶していく人もいる。思わず手を振り返してしまう。するとこっちに手を振っていると
勘違いしたジェット船の乗客が手を振り返してくれた。


 なんだか微妙なスレ違いがありつつも心温まる交流である。さすが道の駅に「カヌーの町」と謳ってあるだけのことはある。そして釣り人もフネを出して釣ってる人が結構いた。しかし、そもそも水量が豊富で川幅が広いため、他の川で見られるようなカヌーと釣り人との小競り合いなどとは無縁の世界なのだ。カヌー天国のようなところである。しかもどういうワケか、この9月の第一日曜日に、我々の他にカヌーしている人を見たのは、同じ田戸の川原からちょっと前に離岸したファルトボートの2人だけである。他に全然見なかったのは我々が遅く出発したからなのだろうか? 
 ジェット船が行ってしまうとまたしても渓谷は静寂に包まれ、我々だけの貸し切りとなってしまうのだった。

 瀞八丁を抜けると北山川は少し開けたロケーションとなる。雰囲気は大井川と気田川の中間くらいの感じで、水量だけが気田川の3倍、といったところか。水の透明度は雨のせいかちょっと濁って緑がかり、低い。しかし汚い感じではない濁り方なので好感が持てる。天気のいい日に下ってみたいところだ。
 トロトロと漕いで下っていくと途中でポツポツと小雨が降り始めた。まるでもう夏が去っていってしまったかのように涼しく、上を見上げると屹立した両側の断崖絶壁の影をバックに、鉛色の空からふわぁっと風に揺らめきながら落ちてくる小さな雨粒がたくさん見えた。パッキーンと晴れた青い夏空を見ながら爽快に下るのを期待していたので少々残念だが、こんな小雨に煙る川を静かに下るのもまた一興と思った。山の端からは、ところどころ霧のようなモヤが湧き出している。
 
 二人という少人数であることも相まって、いつもよりさらに静かな“まったりツーリング”になってしまっていた我々は、言葉も少なくゆったりと漕ぎ進めて行く。と、またしても静寂を破るエンジン音が遠くから聞こえてくる。またジェット船である。しかし天気が悪いせいか、それとも夏休みが終わったせいか、聞いていたほど頻繁ではないような気がした。中には客満載で2台続けて来る場合もあるのだが、席が半分くらいしか埋まってない船もある。フシギである。

 行程の約半分、瀞大橋を越えたあたりで赤とオレンジのフネが川原にコロンと置いてあるのを目撃した。が、人はいない。川原の向こうには車が乗り入れてあって、バーベキューをしている人たちがいた。オレンジのフネはスターンズのレイカーソロで、赤いのは最初イシカワ顧問と同じカラカルに見えたので
(おいおい同じ組み合わせかよー)
と思うが、よく見るとGUMOTEXのサファリかサニーのようにも見える(←しぼんでてよくわからなかった)。同じようにダッキー2艇で川下り(川遊び?)している人がいるんだなぁと、ちょっと親近感がわいた。


 その後しばらくして、いつもより早いランチをとるために上陸する。その我々を川原の流木の上にとまった鷹(鳶?)がじっと見ていた。そういえばこのヘンの鳥はかなり近づいても逃げない。川原にいるシギも25mくらいまで近づくとやっと逃げるくらいだ。ヒトをそれほど怖れてはいないようだ。木曽川となんたる違いだろう。
 そして今回のランチメニューは
「目張り寿司」と、オレが家から仕込んできた「トマトシチュー」である。煮込むのに少々時間が掛かるので、イシカワ顧問と次の万水川〜犀川ツアー計画について話していると、その間にも3隻ほどのジェット船が川を上下して行った。

 ランチの後も我々はまったりと漕ぎ、午後約4時20分、雨のひどくなってきた四滝の川原に上陸した。
 北山川のこのコースはロケーションも良く、下っていてとても気持ちがいい。瀬もせいぜい0.5級くらいのものしかなく、初心者でもかなり安心して下れる。ただし、ジェット船が来たら速攻で左岸に寄ることができるくらいの技術は要るけど...。そして、もうちょっと名古屋からラクに行けたらいーのになぁ。



今回の教訓: 「遠い川に一泊で行くなら、現地でテント張れるくらいの時間の余裕を見ていこう。」