活動記録其の26・櫛田川編
文:隊長&イシカワ顧問
2001年9月24日
2001年ベストリバー!!
〜“桃源郷”櫛田川でイシカワ顧問爆沈&病院送り!
 そこでチーム“鮫”が見た天国と地獄とは!?〜
櫛田川。この川は名古屋カヌーチーム“鮫”にとって忘れられない川となった。

9月24日(月)朝約9時5分。三重県は飯南町にある道の駅「茶倉」の展望台にはオレ(隊長)とイシカワ顧問の姿があった。空は雲一つないカツーンと晴れた超・晴天、眼下には人だけが渡るための吊り橋と、クリア・グリーンの水に満たされた櫛田川が流れている。前週の宮川ツアーの帰りにスカウティングした時は増水のため、あからさまな4級の瀬が確認され、我々を震え上がらせていた櫛田川だが、あれから一週間、まったく雨が降らなかったため、上流にダムの無いこの川の水量はてきめんに落ちていた。それでもオレが渇水だった7月にスカウティングした時よりは多いようだ。しばらくして、さらに上流の道の駅に行ってしまっていたシミズ隊員が合流。今回は前回の宮川に引き続きこの3名のメンバーである。

食糧を仕入れ、あらかじめ決めてあった東村の鉄橋下・駐車スペースにオレとシミズ隊員の車を置き、一路上流を目指す。エントリーポイントをどこにしようか迷うが、前週スカウティングしたポイントからだと20kmコースになってしまうため、結局18kmコースとなる神殿(←スゴイ地名)の旧道の橋を渡った所でエントリーすることにする。
我々は早速、超・急な岩場の道を歩いて下にフネを運び降ろし、セッティングを開始した。オレは北山川で壊れて以来、
チャックが心配だが久々にシャーク3号(スターンズ・リバーランナー)、シミズ隊員は今回が3度目となる新艇“飛騨之守2”(スターンズ・レイカーソロ)、イシカワ顧問はいつものバトルシップ「カラカルT」(←相変わらず愛称募集中)という布陣である。

午前約11時25分、セッティングを終えた我々は櫛田川にエントリーした。
櫛田川は澄んでいた。
いや、澄み過ぎていた。前週の宮川では2.5mぐらいの水深でも川底が見えて、その武儀川なみの透明度に驚いた。しかしこの櫛田川は、さらに上を行っていた。パドルを差し込んでも届く深さではないので正確にはわからないが、明らかに
5mはある淵の川底の砂地や岩がバッチリ見えるのだ! 
我々はその超・透明度に言葉を失っていた。
タマに出る言葉といえば
「スゲエ...」
 という一言のみである。本当にそれ以外、言葉が見あたらない。エントリーした3分後、オレはすでにこの川が大好きになっていた。イシカワ顧問などはあまりの気持ちよさに、新調したPFDの「浮力を試す」とか言いながらイキナリ泳いでいるのだった。

 しばらく行くとザァザァと瀬の音が聞こえてくる。両側がほぼ切り立った崖で水は超・清流というロケーションの中、瀬の音が聞こえてきたため、先頭を行くイシカワ顧問は
「スカウティングしましょう!」
とフネを岸に寄せて歩き始める。やはりまだ根尾川のトラウマを引きずっているようだ。しかし今回はいつかの庄内川の二のテツを踏まないためにも、事前に
「渓谷だから道から見えなかった所にヤバイ瀬があるかもしれん。とりあえず見えない所で瀬の音がしたら全部スカウティングしよう」
と決めてあった。しかしここは見てみると大したことはなさそうだ。左カーブの先に1〜2級の瀬がいくつかあるだけだった。そして早くも登場、四万十川などにある「沈下橋」が我々を待っていた。7月のスカウティング時、ここ櫛田川にはいくつか
沈下橋があることを発見したオレは、ここを「プチ四万十川」と名付けていたのだ。
 いくつかの小さな瀬を越えた所にある、ひとつ目の沈下橋をくぐる様をカメラに収める。なんだかワクワクして楽しい気分だ。
 しばらくは渓谷が続く。崖が迫るロケーションは根尾川、巨岩が突き出す川面は飛騨川、そして水質は武儀川と同等かそれ以上であった。鮎のシーズンも終わっているので、もちろん人の姿などまったくない、またしても清流・独り占め状態の櫛田川ツアーである。しかし最近オレは思うのだ。我々の基本コンセプトである「お気楽☆まったりツーリング」は「ツアー」というより「ピクニック」なのではないだろうか?
 そこで我々名古屋カヌーチーム“鮫”の活動を今回より「リバー・ピクニック」と呼ぶことにしよう。櫛田川の超・清流の上を水上散歩していた我々は突然そう決めたのだった。
 櫛田川はまさにダッキー専用の川といっても過言ではない。風のない淵では、沈んでいる巨岩が下まではっきり見え、それが砂地につながっているところまで手に取るように分かる。同じく巨岩に感動した飛騨川では、岩は緑の水中に消えていたのだが、櫛田川ではその下までがシッカリ確認できるのだ。巨岩で作られた水中都市の上を、飛行船に乗ってプカ〜っとのんびり飛んでいる、そんな感覚だ。空から下界を見ているような気がする、まさに天国にいるような感じがした。「水に浮いている」ということをこれだけしっかりと実感できたのも初めてのことじゃないだろうか。
 一方、浅い瀬では明るい色の岩がゴツゴツしており、手を差し込むと当たるようなところが続いている。まさに、水深が20cmあればスイスイ進むことができる我々のインフレータブル・カヤックならではの、ツーリング可能な川なのだ。同じカヌーでも、「ダッキー乗り」であったことをこんなに感謝したことはかつてない。3人とも顔がとろとろにとろけてヤニ下がった、
超・だらしない笑顔になっている。自分自身が「こんな顔、誰にも見せたことがない」とはっきり自覚できるような笑顔になっているのがわかる。最高である。川の中をのぞき込んでも本当に「スゴイ...」以外の言葉がまったく出てこない。我々は天国の清流・櫛田川で、急性の失語症になってしまっていた。


 午後約12時55分、2級強の瀬をいくつか越えたあたりで、我々は昼食のため上陸した。もう前半戦だけでいつもの川の倍ぐらい堪能した気になっていた我々はゆった〜りと昼の準備をする。本日のメニューは、スーパーの店頭ビラで見つけた合鴨の肉をめいっぱい使用した「カモネギうどん」である。煮えるまで近くの沈下橋で記念写真などを撮りながら遊ぶ。イシカワ顧問とシミズ隊員は沈下橋に仲良く腰掛け、二人してニコニコしながら足をブラブラさせている。先週の宮川に引き続き、男女ペアだったら大自然に囲まれた
ラブラブデート・パート2といった感じだ。しかし残念ながら男同士のため、ただのキケンな図になってしまっていた。
 そうこうするうちにカモネギうどんが完成。鴨の、あっさりとして、それでいてコクのあるダシがしっかり溶けだしたスープは、ここが川原であることを忘れさせてしまうような味だった。
「はぁ〜。ウマい〜」
と、またしてもとろけそうな顔になる
キケンな川原の男3人組である。

(以上、隊長の手記より)

 
 さて、今回はここまでが天国。本当にこのまま川にとろけてしまいそうなシアワセイッパイ!ボクタチもう3人でここで暮らしてしまおうか!ぐらいの勢いな我々だったが、そのシアワセは昼食後・・・狂っていったんだよねぇ。
 うどんを腹に入れてすっかりおなか一杯になった俺(イシカワ顧問)は、先頭で再出発後、目の前の沈下橋をくぐる。その後、ターンをするべく力に任せてパドルを水中に立てると、なんとパドルが
「バキッ!」とヘシ折れてしまった!!カーボンファイバー製のものなので、そう簡単に折れるようなものではないハズ・・・。
このパドル、実売価格5000円ていうのは「お気軽カヌー」を掲げる俺たちにとっては十分値の張るものなんだけど、他の一般的なパドルに比べるとダンゼン安いのだ。今考えたら、パドルが折れたっていうのは、
操縦桿に故障が表れた飛行機のようなものだ。この時点で即リタイア宣言して止めるべきだった。そう、今シーズン最初の根尾川でも、パドルを無くして「流木パドリング」なんつー苦労をしたのは他の誰でもない、俺じゃないか!・・・そうなんだけど、ここまでの櫛田川はホントに天国!・・・俺はパドルの折れたところを無理やりつなぎ合わせるように持ち、そのまま進むことにしてしまったのだ。そう、この天国をこのまま最後まで楽しみたい!

(以上、イシカワ顧問の手記より)


 櫛田川は言葉を奪う川である。我々はその超・透明な水上散歩を、のんびりと楽しみながら下っていた。武儀川のような森の中っぽいロケーションと根尾川のような切り立つ渓谷のロケーション、そして飛騨川状の岩場のロケーションが交互にやってくる。その途中、我々はかつて見たことのない素晴らしい瀬に遭遇した。
「透明な瀬」
である。
 普通、瀬は岩が盛り上がり、それを乗り越える水がその岩に当たる衝撃と落差で白く泡立っているものだ。しかしこの櫛田川の「透明な瀬」は瀬の下こそ泡立っているものの、水が岩を乗り越えているところがまったく泡だっておらず、完全に透明な水を通して
下の岩がクッキリと見えるのである。その瀬を越える瞬間、上から見る透明な瀬のあまりの美しさに見とれ、一瞬パドルが止まってしまった。落差も40〜50cmはあろうという瀬にも関わらず、入る時一瞬完全にスキができてしまうという、ある意味非常に危険な瀬とも言えるかもしれない。あの武儀川に時折あった、水アメのように光沢をもって盛り上がっている水の流れがそのまま大きくなって1級程度の瀬になっているような感じだ。
ここでもやはり「スゲエ...」という言葉以外出てこない。この「透明な瀬」は今回のコースの中に沈下橋と同じ数、3カ所確認することができた。櫛田川は、「日本にはこんな美しい川があるんだ!」と思わせるスゴイ川なのだった。

 しばらく行くと、オレのフネにいつの間にか珍客が乗り込んでいるのに気づく。体長15cmはあろうかというカマキリだった。水に落ちて流されてきてしがみついたのか、フネまで飛んできたのかはわからないが、ライフジャケットに登ってきたので捕まえて、フネのへさきに乗せてやる。するとナマイキにもちゃんとつかまってジッと前を見ているではないか。カマキリにもカヌーツーリングの心地よさがわかるのだろうか?その後ろ姿があまりにも堂々としていて、カヌーに「乗ってる」ように見えたのでコイツを世界初の
「カヌーカマキリ」とすることにした。カヌーカマキリとしてオレの相棒になったからには、コイツにも名前をつけてやらねば。そこでオレはコイツを「ガク」と命名する(←野田ファンの皆様ごめんなさい。カヌー○○というとそれしか思いつかなかったので...)。ガクはシミズ隊員がガクを見ようと漕ぎ寄せてくるとちゃんとシミズ隊員の方を見て観察し、イシカワ顧問が寄ってくると、今度はイシカワ顧問の方をしげしげと見ているのであった。コイツの複眼には我々やこの美しい櫛田川はどういうふうに見えているんだろう。
 世界初のカヌーカマキリ「ガク」と、遂に昆虫まで入隊した我が名古屋カヌーチーム“鮫”は、その後も相変わらずまったーりと櫛田川を下っていった。透明な水の中を時折、巨大な黒い魚影が猛スピードで移動していくのが見える。60〜80cmくらいのバカでかいのもいて、ちょっと食欲をそそられる(←意味不明)。

(以上、隊長の手記より)


 なんとか無理やり折れたパドルで漕ぐ俺(イシカワ顧問)だったが、最初は折れた部分がうまくかみ合っていたので問題なかった。しかし漕ぐスピードは確実に落ちるし、それによってまだ途中の堰堤に着かない。もう日がだいぶ傾いてきた。徐々に焦りだす我々。次々と瀬を乗り越え、先を急ぐのであった。
 と、ちょっとした瀬で、隊長とすっかり意気投合したかに思えていたカヌーカマキリのガクが、何を思ったか突然「ぴょん」と瀬に飛び込んだ。
「おいおい、瀬泳ぎ・ふっちゃんゲスト隊員の真似?」
自然に帰っていったガクを、隊長は惜しむようにしばらく漕いで探し回っていたが、ついに発見できず。
「隊長、ガクは殉死しました。」
「ガクは我々のためにカヌーカマキリの使命を全うしたのです。」
次々と勝手なことを言っている私とシミズ隊員の言葉に半ば呆れ、あきらめた隊長と共に我々は急いでゴールを目指すのであった。
 午後4時半ごろ、ようやく堰堤(ダムに近い)に到着。ここまで折れたパドルを酷使してダッシュしたため、かなりの疲労感があったので、俺は10分間の休憩タイムを提案し、一服。
 堰堤前は流れが完全にせき止められているので、水質も落ちていた。堰堤の横にある公園のトイレの水などが、直接タレ流し状態である。さらにこの公園には駐車スペースがあるのだ。
「ここに車を置いてゴールにしときゃあ本当にベストだったなぁ。」
「それでも良かったねー。」
 今考えると、本当にここがゴールだったら全く問題なかった!
絶対にそうすべきだった!

 フネを担いで右岸を50mほど歩いて堰堤ポーテージ。再び堰堤下からゴールに向かって急いで漕ぎ出す。
というわけでかなり遅めな後半戦開始! なわけだが、その後半戦では、ごつごつした岩場が我々を待ち構えていた。瀬の難易度も前半戦までよりグレードアップしているような・・・。
 前半戦は折れたパドルでも楽勝だったけど、こりゃあ後半戦が思いやられるな。折れた部分もだいぶ弱ってきてるし。などと考えつつカーブを曲がったその時、前のほうで隊長が瀬を越えていくのが見えた。
「俺もこのくらい(2級強〜3級)の瀬、余裕でクリアだぜ!」
気合を入れて瀬に突入しようとしたその時だった。力んでパドルに力を入れたため、もう限界に達していた俺のパドルが、完全に真っ二つになった。
「ダブル・パドル」が「2本の短いシングルパドル」になってしまう。これじゃあまるっきりコントロールが効かないではないか。呆気に取られている俺を乗せた愛艇カラカルはそのまま横向きになり、瀬の中で岩に張り付いてしまった。コントロールがまともに効くパドルだったら楽勝でクリアしていたような所なのだが、横向きに岩に引っかかっては身動きが取れない! 川を半分せき止めてダム状態になりつつある俺のカラカルに、水流が襲ってくる。なんとか体勢を立て直すため、折れたパドルで周りの岩を突っついたり体重を移動させたりするうちに、フネが動き出したかと思ったら、そのまま横向きに瀬の中に大転倒をかましてしまったのだ!
「爆沈!!」
 豪快にひっくり返ったのに驚いた俺は、水中でもがくのだが、転倒した時の衝撃でなんか肩をひねったのか、うまく右腕が動かない。メガネバンドもしていたはずなのに、メガネもどっか行ってしまったようだ。
 うーむ、ちょっと痛いがとりあえず岸に上がってリカバリしなきゃ。なんとか片腕でカラカルに掴まって、隊長に助けられつつ岸までたどり着く。ちなみに持っていたパドル(すでに真っ二つ)だが、片方はうまく回収。しかしもう一方はどうやら水底に沈んでいったらしい。
 岸に着くと割と冷静になった。しかし、・・・・んー?やけに右肩が痛いなぁ。う、うまく動かん!・・・どうやら
脱臼したようだ。以前に俺は左肩を脱臼した経験があって、肩を脱臼した感覚を覚えていた。今回はそれに近い。ということで脱臼であることはすぐにわかったんだが、自分で肩をハメル技術は持っていなかったので、痛い思いをしながら誰かにハメてもらうのを待つしかない。当然ここでリタイア。隊長とシミズ隊員に道路までの道を誘導してもらい、なんとか人のいそうな道に出る。
「すぐ車で迎えに来るからな!」
と言い残し、隊長とシミズ隊員は再び川に出た。地図ではあと3kmちょいでアウトポイントのハズだ。急げば戻ってくるのに1時間は掛かるまい。それまでの辛抱だ。

(以上、イシカワ顧問の手記より


 川に戻った我々2人を待っていたのは着々と暗くなる空と、大魔人のように表情を変え(←たとえが古い)、強力な瀬がやたらと増えた櫛田川だった。櫛田川に瀬が多くなるのは先ほどの堰堤から先だったのだ。どれだけ水船になろうが、お構いなしに瀬を次々クリアするオレとシャーク3号。しかし岩にゴリゴリと擦るポイントが結構ある。
 振り返るとシミズ隊員がかなり遅れている。見るとシミズ隊員の飛騨之守2、スターンズ・レイカーソロはセルフベイラーが付いていないため、いったん水船になるとずっと動きが悪く、重たくなったままになってしまうのだ。しかもなお悪いことに、フロアチューブの空気が、穴が開いたのか抜けてしまっていて浮力がさらに落ち、岩があると尻を打つという最悪な状態になってしまっている。デビュー3戦目の飛騨之守2は完全に豊川の時のファルトボート、パジャンカ・飛騨之守1の様な潜水艇状態である。シミズ隊員のフネは今や、イエロー・サブマリンならぬ、
“オレンジ・サブマリン”と化してしまっていた。当然、強力な瀬の後では豊川の時と同様、しょっちゅう水抜きをしなければならなくなっている。
 そうこうしている内に日は傾き、時間だけが着々と過ぎていく。アセるオレは次々と迫り来る2〜3級の瀬をスカウティングもせずに強引にクリアし、先を急いだ。しかし越えてみてヤバかった瀬の所では後続のシミズ隊員を待ち、進入ルートを教えるということを繰り返す。
 そして、もうすぐアウトポイントが見えるかと思う岩だらけのポイントにさしかかった時だった。そこは流れが左に落ちており、その落差は3級弱。その7〜8m先に3級強の落ち込みが川幅いっぱいにあるところだった。連続していない3級程度の瀬なら恐れなくなっているオレは、普通に突っ込む。一つ目は水船になりながらも余裕でクリア。しかしそのまま行った二つ目の瀬をズドンと降り、クリアしたかと思った瞬間、
凄い力で後ろに引き戻される感覚が! ズルズルと3級の落ち込みに後ろから引っ張り込まれるシャーク3号! へさきが少し持ち上がり、ウィリーの様な体勢に!
「ヤベェエー!!」
 まるで背中からアリ地獄に吸い込まれるような感覚だ。一瞬血の気が引いたような気がする。オレは前傾姿勢になり、慌てて必死にパドリングした。するとなんとかフネは前に吐き出されたのだった。
「横向きに落ちてたら...」そう考えるとゾッとする、天竜川にあったストッパーよりも恐ろしく、クセの悪い強力なストッパーだった。ああいうのをキーパーズ・ホールというのだろうか。すぐ岸に寄せ、シミズ隊員が来るのを待ってポーテージを指示する。ここは大事を取った方がいい所だと判断したのだ。かなり怖い所だった。
 その後も時折ある、たまり場の巨石が相変わらず川底まで見えるのだが、妙に自分のいる「高さ」を感じてしまい、ちょっと薄暗くなってきたのと相まって今度は不気味な感じに見えてくる。人間、気分が変わると同じものでもこんなに見え方、感じ方が変わるものなのだろうかと思う。
 そしてなんとかアウトポイント直前の最後の沈下橋にたどり着く。前半あれほどウキウキした沈下橋だが、通過するのを楽しむ余裕はその時すでに無くなっていた。午後約5時50分、いったん上陸ポイントを間違えながらもなんとかフネを担いで車の所まで運んだ我々2人は、フネを乾かす間も無く畳み、車でイシカワ顧問の待つ学校下の畑へと急いだ。

(以上、隊長の手記より)


暗いよー。寒いよー。痛いよー。寂しいよー。
隊長、シミズ隊員、まだかなぁ。
捨てられた猫のように、いや、その後野良犬に襲われてさらに大怪我をした猫のように、俺は道路の片隅で座り込み惨めに救助の車を待っていた。
結局、松坂市民病院に運ばれたのは、もう夜の9時頃のことだ。もちろん休日時間外診療。
「すんません、肩、外れたんで、治してほしいんですけど。」
「はい、ちょっと待ってね。えーと、今の時間の担当は、
脳外科の先生
「ひょえー!」

(以上、イシカワ顧問の手記より)


 
櫛田川は“鮫”史上、最高の天国のような川である。しかも最高に楽しませてくれたのと同時に、川で遊ぶ我々に重大なことも教えてくれた。
 
自然はいつでも「自然にある」だけなのだ。
 それを時に天国のように「美しい」と感じ、時にまったく同じものを地獄のように「恐ろしい」と感じるのは、人間の心によるものなのだ。そんなことがよくわかった今回の櫛田川であった。

(以上、隊長の手記より)
 



今回の教訓: 「パドルは命綱。折れたらそこであきらめよう。」