活動記録其の30・櫛田川編part-2
文:隊長
2002年3月10日
名古屋カヌーチーム“鮫”シーズン2002、遂に開幕!
 〜“桃源郷”櫛田川で新入隊員アビルマンが目にしたのは地獄の黙示録!?〜
西暦2002年3月10日(日)約午前10時10分、ポカポカ陽気のこの日、三重県・櫛田川べりの高台に立つ道の駅「茶倉」にはオレ(隊長)とシミズ隊員、そして公式戦は初参戦という“元ボート部”アビルマン新入隊員の姿があった。

 正式開幕前のクソ寒い1月や2月からフライング気味にオープン戦活動を行っていた名古屋カヌーチーム“鮫”であるが(←ってゆーか、主にオレ)、ついに今日、禁断症状の出始めている隊員たちの突き上げによって予定より1週早く、正式にシーズン2002を開幕する運びとなっていた。
 しかしホームページで「開幕戦! 櫛田川で今シーズンを占う!」と10日開幕を元気に宣言した張本人のイシカワ顧問、
イキナリ遅刻(この時まだ長良川を渡ってやっと三重県に入ったくらい)。もう一人の参加者・うーやん隊員も道に迷ってまだ到着していなかった(とか言いつつオレもちゃっかり10分遅刻してた)。
 さすが“鮫”である。開幕当初からこの集合状況なのだ。イシカワ顧問の言葉通り
開幕戦が一年を占うのであれば、今年も先が思いやられるようだ。はてさて(←死語)今年は一体何が起こるのだろうか? ちなみに昨年の開幕戦・根尾川ではオレがいきなりパドルを忘れて出艇できず、イシカワ顧問が「独り鮫」で撃沈の後、流木パドリングで命からがら生還という、しょうがないスタートであった。
「そんなコトもあったなぁ」
と、わずか一年前のコトを遠い昔の出来事のように思い出していると、うーやん隊員の車が到着。そこで、イシカワ顧問到着までの約1時間の間に買いだしを済ませる事にする。

 前回特売のカモ肉を購入したスーパーで、今回は豚肉・鶏肉・キノコ3種と白菜・ネギなどの野菜を仕入れ、予定アウトポイントとした堰堤横の公園に向かう。
 しかし、
いきなり道に迷う(←ホントに先が思いやられる)。なんとか公園の駐車場にたどり着いた我々はそこに車を2台置き、上流の、前回と同じエントリーポイント「神殿」に向かった。が、また迷い、支流・相津川の川べりを遡ってしまう我々。やはり今年は問答無用で先が思いやられる展開のようである。
 エントリーポイントに着くとすでにイシカワ顧問が先に着いていた。ううむ、どうなっているんだ? とりあえずそそくさと準備を開始した我々だが、このエントリーポイントは険しい岩場を垂直に降りなければならない構造になっており(本来は取水ポンプのメンテナンス用の道のようだ)、フネを降ろすのも膨らませるのも苦労する。しかしなんとか20分ほどで準備を完了し、エントリーすることができた。

 今回オレは開幕戦ってコトで“シャーク3号”スターンズ・リバーランナー、シミズ隊員も“飛騨之守2”スターンズ・レイカーソロ、イシカワ顧問はいつものカラカルT(結局愛称未定のまま)で、この3人はフネもメンツも前回の櫛田川ツアーと全く同じである。そしてうーやん隊員はカラカルT(愛称不明)、アビルマン隊員は早くも2艇目でダッシュ隊員と同じ、赤のGUMOTEX・サファリ(激烈号)である。

 空には雲一つない晴天の下、約半年ぶりの櫛田川は相変わらず素晴らしかった。季節的なものなのか、前回より水は緑がかって濁っている感じがしたのだが、それでも他の川と比べれば十分すぎる透明度だ。水量は今回の方が少し少ない気がする。

 エントリー後すぐ、最初の沈下橋が見えてきた...と、その前に今日、買ったばかりの新艇・GUMOTEX・サファリで参戦しているアビルマン隊員が、ちょっとした瀬でいきなり疎沈。積んであった浮力体(でも空気は入れてなかった)を流出させてしまい、まっ赤なラバーのそれは早速、開幕を記念するかのように櫛田川様に奉納されてしまったのだった。ってゆーか、例によって川底に沈んでるのは見えるんだけど拾えない状況で、頑張ったが結局回収作戦は失敗に終わったのでした。しかし今思えば(←櫛田川ではいつものセリフ!?)この段階でアビルマン隊員のフネのセッティングをチェックしておくべきだったのだ。

 ここで今や“疎沈王・Mr.6”ダッシュ隊員だけでなく、アビルマン隊員も所有することとなった「GUMOTEX・サファリ」について説明しよう。GUMOTEXのホームページでは「For Wildwater」となっているセルフベイラー装備のバトルシップなのだが、
中・上級者向けのフネとされていて、正直言って横方向の安定性はあまり無い。無いってゆーか、他のフネとは明らかに違う設計思想で造られていると言うべきかもしれない。
 このテのダッキーはフットレスト、シートにヒザでテンションを掛け、さらにサイストラップ(ヒザに引っかけるヤツ)で体とフネを一体化させてコントロールするようになっている。そのため、微妙な体重移動で非常にユラユラと傾き、またクルクルと良く回るフネなのだ。スラローム状の瀬の中でキビキビと方向転換をしながら進んでいくには最適のハズなのだが、なによりまず根本的に、
“的確に操作する技術”が不可欠なフネである。
「今日は撃沈覚悟です!」
と、ある意味当初から玉砕覚悟だったとはいえ、ほぼパーフェクト・カヌー初心者のアビルマン隊員には操るのがかなり難しいフネでもあった。とりあえずフラフラしながらも、ダッシュ隊員が豊川で見せたような疎沈の嵐は巻き起こしていないだけ、アビルマン隊員は見事だったと言えなくもない。しかし、彼のフネはフットレストとシートがしっかり固定されておらず、なおかつサイストラップは着けられていなかった...。

 超☆美しい渓谷の中を流れる櫛田川は根尾川の前半コースと同様、やはり素晴らしい景観だった。うー隊員は以前にも櫛田川を下ったことがあるのだが、それはかなり下流の方で、我々が前回下ったこの上流コースは始めてだった。
「スゴイ〜」
感嘆の声をあげるうー隊員。しかしオレとシミズ隊員、イシカワ顧問は
「なんか前より濁ってるよねぇ」
などと
超ゼータクなコトをほざいてしまっていた。
 アビルマン隊員ももちろん初めてなのだが、景観を楽しんでいる余裕は少ししかないようで、クルクル回るフネのコントロールに必死だ。
 水がまだ冷たいせいか、前回は水中にたくさん見えた巨大な魚影の数々が今回はとても少ない。そして太陽の高度も低いので、山間を流れているこの辺りには陽の当たらない水面も多い。やはりまだ初春なのだ。手を突っ込んでみるとかなり冷たい。
 しかし天気は良く、今日は気温も高いのでやはりいい気分であることに変わりはなかった。疎沈してすでにずぶ濡れのアビルマン隊員もナイロンのスパッツなんかで来ているワリに、別に特に寒がっていない所を見ると、ウェットスーツを着ていればどうってことないレベルのようだ。シミズ隊員などはウェットを着ているが、当初上半身はTシャツだったくらいである。しかし寒がりのオレは例によってウェダーを履き、上は防水パドリングジャケットを着ていた。お陰でちょっと漕ぐとイキナリ暑くなってきてしまった。
 美しい渓流・櫛田川をスイスイと滑るように進む我々。(今シーズンも一年、
こんな素敵な川下りができるといーなぁ)と思って振り返ると、アビルマン隊員が遅れている。コースがしっかり読めていないようで、水面下の隠れ岩(と言っても櫛田川は清冽・透明なのでしっかり見える)にしょっちゅう引っかかって、止まるか回転してしまっている。相変わらず腹がつっかえて、そっくり返ったような姿勢で漕いでいるためか、満足にコントロール出来ていないようだ。
 ランチポイントを目前にしてかなり遅れてしまったアビルマン隊員を気遣って、うー隊員がちょっとフネを取り替えるコトを提案し、交代する。が、サファリに乗ったうー隊員は順調に進んでくるが、アビルマン隊員はカラカルでも引っかかって遅れてしまっている。
(うーん、やっぱコントロールの問題のようだなー)。
とオレが後ろを振り返って思った時、サファリを駆ってオレを追い抜いて行ったうー隊員が、ちょっとした岩に引っかかって疎沈。やはりサファリは安定性がよろしくないようだ。やっぱサファリのせい?(←どっちやねん!)
 その後サファリで2級強の瀬を越えたうー隊員によると
「このフネ、すっごく怖い!」
だそうである。横方向の安定性がかなり良いカラカルを愛艇とするうー隊員には、やはり相当怖いようだ。オレはサファリと同じくらいの安定性のGUMOTEX・Jr.に乗り慣れていて、スターンズに乗り換えた時にかなり感動したが、それとちょうど逆の状態ということであろう。

 二つ目の沈下橋の見える所で川原に上陸した我々は、今年導入したアルミ製大鍋を使用して特製・開幕鍋の製作に着手した。しかし鍋がデカすぎるのか、まだ気温が低いからなのか、鍋はなかなか煮立ってこず、結局30分近くまった〜りと鍋を囲んでダベってしまう。幾度かの疎沈でスパッツがズブ濡れとなって体が冷えてしまっているアビルマン隊員が、日光に温められた小石だらけの川原に腹這いに寝ころび、
「はぁぁ〜、暖かくてキモチい〜」
などと極楽に浸っていると、同じく水を被ってウェットが濡れたシミズ隊員とうー隊員も腹這いに寝そべり始め、鍋を囲んで3人が放射状に寝そべったまま鍋の完成を待つという、上の橋から見たらかなりヘンな光景が展開される。って、いつものコトか...。
 そうこうしているうちに鍋完成。スゲー量である。
「こりゃー絶対余るな」
というオレの予想とは裏腹にみるみる減っていく鍋。2種類の肉、3種類のキノコ、そして野菜の他に餃子2人前とうどん3人前という膨大な物資を投入した特製鍋もなんだかんだですっかり無くなり、川原を撤収した我々はやっと後半戦に突入する。このランチタイムに1時間半近くとってしまい(結果的にこれが後から響いてくることになってしまった)、再エントリーしたのは午後3時を少し過ぎていた。

 ちょっと低めの沈下橋をフネに乗ったまま
リンボーダンス状態で越え(アビルマン隊員はポーテージ)、前回イシカワ顧問がパドルをまっぷたつにした瀬をも歓声を上げながら越える。が、一番最後に突入したアビルマン隊員がその瀬の最後の岩に乗り上げ、下方向に回転して撃沈してしまう。
 しかしすぐ下がもうトロ場だったのが幸いして、フネに掴まったまま流されてくるアビルマン隊員。
「これが撃沈かぁ〜!」
初撃沈に思わずうめいたアビルマン隊員の一言はそれだった。
そしてここからアビルマン隊員にとって
本当の試練が始まる。その後もやはり浅瀬や隠れ岩に引っかかって止まり、遅れていくアビルマン隊員。表情はだんだん曇り、口数も少なくなり沈黙していく。漕ぎ方は手先だけであまり力が入っていないように見える。聞いてみると体力が無くなって、もう力が入らないらしい。そして瀬を越えた時に腹筋も限界点を越えたらしく、つってしまったりしているようだ。
 上体をしっかり起こせないのでパドリングに力が入らないのかと思ったが、どうやらそれだけではないみたいだ。やはりフットレストとバックシートが効いていない状態では、クルクル回るフネをまっすぐ保つのに相当パワーロスが大きい。そこに撃沈・疎沈が重なって体力を使い果たしてしまったのだ。

 しかも櫛田川は瀬の級数とは違った意味で難易度が高い川のようだ。それほど慎重にコースを読まなくても、ある程度流れに乗って流れて行ける川ではなく、浅瀬の中をルートを読んで右に左にと船底を擦らないコースを探しながらの、かなり正確な細かい方向転換が必要なのだ。喫水の浅いダッキーでなければ来られない川というのは当然であるが、なおかつ細かい動きができなければならない所なのだ。
 前回ほとんどそんな難易度を感じなかったのは、我々が知らず知らずそんな川を行くための技術を身に着けていたからだということに初めて気づかされた。
 そうこうするうちに2級弱の瀬が連発する所にさしかかる。ロケーションは相変わらず最高で、あの我々を魅了した“透明な瀬”も健在だった。しかしそのひとつ前の2級強の瀬でアビルマン隊員が再び撃沈して漂流。助けようとしたうー隊員も一緒になって二人とも
“透明な瀬”に転落してしまう! 流れ出すサファリ! 流れ出すアビルマン隊員&うー隊員! 流れ出す荷物! “透明な瀬”を越えて待っていたオレは、瀬に向けて漕ぎ上がると流出物の回収に向かった。二人はとりあえず岸に上がることに成功して事なきを得たようだ。
 結局オレはフネと荷物とパドルを回収。一段落したが再びエントリーすると、またしても遅れていくアビルマン隊員。もう表情は完全にこわばり、固まってしまっている。陽が傾き始め、アウトポイントが待ち遠しくなってくる。しかし前回下った時はあまりのロケーションと水質に、開放感いっぱいの陶酔状態のままイケイケで進んでいたせいか、コースの過程をあんまり良く憶えていない我々。
「こんなトコあったっけ?」
「確かあの先を曲がった所に橋があって、そこからほぼ静水になってる所がゴールの堰堤だよね?」
と、見当違いのことばかり言ってしまう。中には
「あっ! ここは憶えてる! ってコトはゴールはもっと先?」
などという所もあり、なんだかもう記憶まで混乱してメチャクチャである。一回行ってるから知ってるコースだと思ってナメていたため、地図を持ってきていない。そのため、現在位置も残り距離もまったく読めなくなってしまっている我々は
(前回より4〜5km縮めてるからもう着くはずだ)
という「つもり」のまま、もうかなりの距離を漕いでいた。
 アビルマン隊員はあまりの辛さに
「もうフネ降りたい気分っす」
と泣き事を言い出している。
 日没まで約1時間(目測)、途中の上陸可能な橋でアビルマン隊員だけ上がらせて、後から迎えに来ることも考えるが、地図がないため位置がわからない。「後ほどピックアップ」作戦は少々危険である。またしても桃源郷のはずの櫛田川が静かな闇を以て迫って来ている感じがしてきていた。やはり前回と同じように、陽が陰って薄暗くなってきても水底がクリアーに透き通って見える。自然の底知れない美しさと底知れぬ奥深さ、そしてそれに対する畏怖を感じてしまう。
 しばらく行くとやっとそれらしき、いちめん水深20cm弱の、少し周りが開けたロケーションの所に出る。小石の上をすぅーっと滑っている感じがして、とてもキモチがいい所だ。
 ここでオレはシミズ隊員に先に行ってゴールが近いか様子を見てくれるように頼み、アビルマン隊員を待つ。
「初めて参加した
“員弁川の地獄の水中歩行”(員弁川編part−2参照)を思い出すなぁ」
と、見かねたイシカワ顧問がアビルマン隊員に少しでも楽をさせようと、自分のカラカルとサファリを交換して漕ぎ始めた。
「シートとサイストラップが無いとこれはツライ! 安定感はリジット並だねー」
とか言いつつもちゃんとサファリを操っている。さすがに沈はしないが、やはり力が入らないためスピードは出ないようだ。
 そうして結局、我々がゴールの堰堤横公園にはい上がったのは午後6時を少し過ぎ、辺りが暗くなり始めた頃であった。

開幕戦にして、またしても前半は最高で後半はアセるという「極楽→地獄パターン」に陥ってしまった今回の櫛田川であるが、
「来月また来ましょうよ!」
という、うー隊員の言葉には素直に賛同してしまう我々なのだった。なんだかんだあってもチーム“鮫”はこの川に完全に魅入られてしまったようである。

今回の教訓: 「記憶はあんまりアテにならない。知っている川でもやはり地図はちゃんと持って行こう! そして川の難易度は瀬の級数だけじゃない! 注意!」