活動記録其の15・九頭竜湖編
文:隊長
2001年7月1日
湖は体育会系!? チーム“鮫”遂に湖デビュー!
〜強風にあおられ、水上迷子でカナダの幻は去りぬ!?〜
今回のMAP

我々名古屋カヌーチーム“鮫”は、過去に三大カヌーフィールド(←大げさな言い回し)の内二つは制覇してきていた。それは
 1.いわゆるひとつの「川」
 2.いわゆるふたつの「海」のことである。しかしもうひとつのカヌーフィールド、
 3.いわゆる三つ目の「湖」だけは行ったことがなかった。
そこで満を持して(とかいいつつ事前スカウティングすら行ってないけど)2001年7月1日(日)、チーム“鮫”初の湖行き、九頭竜湖ツアーが決行された。
 参加メンバーはオレ(隊長)と土居隊員、そして「湖には瀬がないから張り合いがないですな!」というマゾヒスト・“撃沈王”イチロー隊員、そしてせっかくセルフベイラー付きの新艇を買ったのにビビって気田川にすら行かなかった“鰯”ダッシュ隊員の4名である。
 よく晴れたが風の強かった当日朝の約11時、チーム“鮫”がちょくちょく利用する、国道22号線沿いのステーキハウス「ブロンコビリー」横のサークルK駐車場で、オレはパンをほおばりながら「東海・長良川&四国・吉野川ラフティング」という、よくわからないカップリングのビラを読みふけっていた。と、その時突然、目の前に軽自動車が現れた。それは愛車が車検中のため代車の「ファビオ」に乗ったイチロー隊員である。30分も遅刻してきやがったクセに「ニカッ☆」とした笑顔だ。しかしその頃、土居隊員&ダッシュ隊員はといえば、道路を挟んで反対側のパチンコ屋で2時間も前からスロットに入れ込んでおり、土居隊員2万負け・ダッシュ隊員5万勝ちという勝者と敗者の明暗がくっきり分かれていた。

 30分後、我々は九頭竜湖をめざし、一路、東海北陸自動車道をひた走っていた。九頭竜湖は岐阜県と福井県の県境、油坂峠を西へちょっと行った所にあるダム湖である。この油坂峠辺りに発し、福井県を縦断して日本海へと注ぐ九頭竜川の上流部分を、ダムでせき止めたことによってできた湖だ。しかしダム湖とはいえ、地図で見ると東西に約10kmほどあり、かなり長細い形をしている。端から端まで漕ぐとするとそれは静水を10km漕ぐってコトになり、結構ハードになると思われた。また、ダム湖というコトは、そう簡単にあちこちからエントリーできる地形ではないことも予測できていた。そのため今回我々は、スカウティングがてら少し湖畔を走ってエントリーできるポイントを探し、そこから漕げるだけ漕いで元の場所に戻ってくるという作戦に出た。が、誤算はその前にあった。

東海北陸自動車道・白鳥インターを出た我々は油坂峠に進路をとった。と、すぐループ橋があり、そのまま峠道へと突入してしまう。
「やべーなー」
オレはつぶやいた。そうである。昼メシを買い出す所がなかったのである。地形的に上陸できるポイントが限られると踏んでいたオレは、今回新たな試みとして湖ならではの「フネの上でランチ」という、牧歌的・昼食計画を企んでいた。これを思いついた時オレのアタマの中には、雪を頂く雄大な山々に囲まれたカナダの湖水に浮かぶ木製カナディアンカヌーの上で、釣り糸を垂れながらフネの上で沸かしたコーヒーを飲む(モデルはC.Wニコルっぽい白人)、というステキな光景が何の根拠もなく広がっていたことは言うまでもない。しかしそんな妄想は、家一つ無いワインディングロードをタイヤを軋ませて走っているうちにキレイさっぱりとかき消されてしまっていた。
「メシはどーするんスかー?」
助手席ではイチロー隊員(←結局ファビオはパチンコ屋の駐車場に置き去りにしてきていた)が心配そうにつぶやく。オレも内心
(やっべえー、こりゃ昼飯抜きで漕ぐハメになるなー。って、メシはよくてもドリンクがなぁ...)
などと心配しつつもそんなことはおくびにも出さず、
「観光地だろ? 店ぐらいあるよ」
と、何の根拠もなくほざいてしまっていた。不安は募るまま車を走らせる。しかし天は我々に味方した(かに見えた)。
 峠を越え、九頭竜川沿いを西走して九頭竜湖畔をしばらく行くと林谷橋を越えた辺りに土産物屋とおぼしきドライブインがあるではないか。さっそくそこに停車した我々は店内を物色する...が、そこは食堂で、テイクアウトできる食べ物といえばジュース、ビールとおつまみの他は、土産物の漬け物のみであった。「うどん」という暖簾が寂しくはためいて見えた。仕方なくドリンクとお菓子少々だけを仕入れた我々は、
「上がったら必ずこのうどん食ってやる!」
と固くココロに誓い、再びエントリーポイントを探しに出発した。が、予想通り、やはりそうそう都合よく岸辺に下りられる所はなく、約30分後、結局そのドライブインの下の岸辺まで下りられる散歩道のような所から我々はエントリーした。


 九頭竜湖はカナダの雄大な湖水(←例によって写真で見ただけで行ったコトないけど)ほどではないにせよ、山に囲まれたなかなかの景観を持ち、いくつかの川の流れ込みが作る入り江によって変化に富んだ風景を形成している。豊富にたたえられた水は、ダム湖にしては割と澄んでいるような気がした。浅い岸辺では打ち寄せる波で岸辺の土が洗われ、黄色く濁っていたが、岩場の所では結構下まで透き通って見える。しかしいかんせん、ほとんどのところが岸辺から急に深くなっており、透明度を実感できるところはそれほど多くはなかった。岸辺付近には沈んだまま立ち枯れた木々が、その先端を水面から突き出しており、それもダム湖であることを象徴している。
 風が強く吹いていたため、風下方向に向かうことは「行きはよいよい、帰りはコワい」を意味した。そこで、我々は最初は風上に向けて漕ぎ、帰りにはラクして流されてくる作戦をとることにする。オレは流木が大量に浮かぶ岸から真っ先にエントリーすると、風に逆らって必死に漕いだ。最初の箱ヶ瀬橋が見え、その下までは意外と早くたどり着くことができたが、漕ぐのをやめると風にあおられ、グイグイともと来たほうに流されてしまう。荷暮川の流れ込みがつくる入り江の山影に入って後続の隊員たちが来るのを待つが、みんな向かい風に四苦八苦して、追いついてくるのに10分近くかかってしまっていた。


 ダッシュ隊員が始めに追いついてきたが、せっかくのセルフベイラー付き新艇・「Newダッシュ号」GUMOTEX・SAFARIにイマイチ慣れていないらしく「安定が悪い」とか「腹筋が痛い」などと泣き言をほざいている。ちなみに今回はオレもシャーク2号(GUMOTEX.Jr)、土居隊員はいつものGUMOTEX・ヘリオス、イチロー隊員も“撃沈2世号”GUMOTEX・ヘリオスという、初の「全員GUMOTEX」という、イワタニリゾート(※注.GUMOTEXの輸入代理店)の人が見たら写真撮ってパンフレットに使ってくれそうな(野郎ばかりなのがイメージダウンになりそーだけど)布陣である。


 土居隊員とイチロー隊員が追いついて来た時、オレはすでにフネの上で独り乾杯し、つまみのピーナツをぼりぼり食っていた。一応、みんなで橋の下をくぐる所をカメラに収める。しかし九頭竜湖の上で全員が揃っているのを見たのはそれが最後の一瞬であった。その後逆風を衝いて西へ西へと漕ぎ進めたオレが後ろを振り返った10分後、後ろに見えたのは点になった土居隊員のみである。あとは待てど暮らせど残りの2隊員の影は一向に見えてこない。途中、面谷川の入り江に入り、川を遡ったりして遊んで待っていたのだが、結局シビレを切らした我々はイチロー&ダッシュ隊員を水上残留孤児として置いていくことにし、さらに西へ西へと進む。九頭竜湖の西側4分の1くらいのダム施設近くは船舶航行禁止区域になっているようで、その目印として両岸にブイと立て札がある、とのことだった。そのブイが見えるところまで行ってみたかったのだが、残念ながらあまりの強風に知らず知らず体力を搾り取られていた我々2人がヘバるのに、それほどの時間はかからなかった。結局湖の中程にある大谷橋まで行き、そこで引き返すことにした。
 しかし異変はこの後起こった。帰りは追い風でラクラク...のハズが、何故か漕いでも漕いでも船首がクルリと右回転して風上を向いてしまう。
「? おかしーなー。何もしなければ横向きになるのはわかるけど、何で風を背に受けて風下に向けて漕いでいるのに風上に向いてしまうんだっ?」
謎である。しかしホントに何故かそうなってしまうのだ。片漕ぎしているのかと、パドルのグリップから、ブレードを差し込む位置、果てはフォームまで注意深くチェックしながら漕いでみたが、やはり漕げば漕ぐほどクルリと船首が右回転して風上を向いてしまう。途中で
「南を向いてる? 方位磁針ぢゃないってーの!(←方位磁針が向くのは”北”)」
と自分でツッコミを入れてしまいたくなるほど、フネが言うことをきかない。まるで何か見えない磁場の影響を受けているようだ。時折、風で出来た波に乗っかりサーフィンのように進む感覚がある他は、追い風にも関わらず、漕いでも漕いでもクルクルと回ってしまい、気がつくと風上に向かって漕いでいる自分に気づく。ちょっとコワくなる。
 あとで聞いたところによると、この時は全員同じ状況に苦しめられていたようである。九頭竜湖にはUFOの秘密基地がある! ...のか、または我々の知らない、風とインフレータブルカヤックにまつわる自然法則でもあるのだろうか?

 予想外に帰りにも時間と体力を使った我々3人(ダッシュ隊員はそのへんをウロウロしていた)がやっとの思いでエントリー地点にたどり着いた約17時30分頃、オレが追い風にも関わらず“必死になって”漕ぎながら呪文のように唱えていた「うどん!うどん!うどん!」という願いも虚しく4時で閉店したドライブインの駐車場では、早々とヘバった上とっくの昔に上陸してフネを畳んだイチロー隊員が大の字になって昼寝をカマしていた。

今回、風にもめげず(めげたけど)漕いだ距離は往復で約8km(オレと土居隊員。イチロー&ダッシュ隊員は1〜2km)である。我々の実力では達成が困難とされる、来たるべき浜名湖横断ツアーの予定距離は約6km(直線距離)。今回を前哨戦ととらえれば、やってやれないことはない! と少々自信を深めたチーム“鮫”(オレと土居隊員)であった。

今回の教訓: 「湖は体育会系!やはり風は強敵だ。
追い風でも安心してはイケナイ。」