活動記録其の28・根尾川編part2
文:隊長
2001年10月29日
根尾川リベンジ!! チーム“鮫”2001年最大の難所“発電所の瀬”で返り討ち!?
〜そしてイシカワ顧問のトラウマの行方や如何に!?〜
今回のMAP

「同じ相手に2度負ける訳には行かない!」
とは某格闘家のセリフであるが、我々名古屋カヌーチーム“鮫”にとっても同じことが言えるだろう。そして...。

 本格的な秋の到来によりチーム“鮫”シーズン2001も終幕に向けて走り出していた10月29日(月)午前約11:30分(適当)、岐阜県・揖斐川の上流、小雪...じゃなくて枯れ葉舞う根尾川に掛かる橋の上には平日であるにも関わらずオレ(隊長)、シミズ隊員、そして女性新入メンバー“チャレンジャー”うーやん隊員の姿があった。

 気温は18℃。前日夜に降った雨の影響か、2週間前に偵察にきた時よりも豊富な水量が根尾川を満たしていた。眼下にはあの、シーズン開幕戦でイシカワ顧問をピッコロ大魔王もビックリの無敵モードから、奈落のズンドコへと叩き落とした(※根尾川編part−1参照)憎っくき“発電所の瀬”があった。

 轟音をたてる3級から5級に見える瀬が2・3箇所、瀬のすぐ後は返し波やボイルが沸き上がり、なんだか、もうっ! って感じでとにかく、相当なパワーのある豪快な流れをこれでもかとばかりに我々に見せつけている。
 そうである。今日こそが待ちに待ったリベンジの日なのだ。この7カ月間で、幾多の川と幾多の瀬を渡り歩いてきた我々のレベルがどれほど上がったものか、試すことのできる絶好のチャンスが今日なのである。この“発電所の瀬”こそ我々の成長度を試す試金石といえよう。しかし、
我々はすでにびびっていた。

「これは、ちょっと...」と絶句するシミズ隊員。

「隊長行って下さい! そうしたら私も行きます」

と、葛原川で「向こう側」の世界を垣間見たハズの“命知らずのチャレンジャー”うーやん隊員も後込みしている。

「確かになぁ...。こんな上から(橋から水面まで約10m)見て、あんなにデカく見えるモンなぁ。下で見たら...」

 と言葉を濁すオレ。しかし激ヤバな問題の瀬は右岸ギリギリの所にあるが、左岸には岩場があり、フネを着けてポーテージすることは可能のようだ。最悪はそれであろう。リベンジに来ておきながら尻尾を巻いてポーテージするのはシャクだが、ちょっとシャレにならないコトになってもそれはそれで困る。何しろこの橋に到着した時、地元の人に呼び止められて

「カヌーしに来たんです」

と応えたうーやん隊員に、地元の人は

「ここでカヌーはやらんで。危ないから」

と普通に警告して去っていったくらいなのだ。確かにシロウト目に見ても間違いなく「危ない」。しかしそんなコトはわかった上の自己責任で来ているのも事実だ。判断は自分でしなければならない。

 空を見上げると7カ月前のあの時と同じく、白い雲がゆっくりと流れていく程度の晴天、そして根尾川は相変わらず素敵な透明度である。
 今年、超・清流と思われる川をいくつか見てきた目からしても、その清冽さは微塵もくすんでは見えない。上流側に目を移すとこれまた相変わらず両側が素晴らしく切り立った崖、という超ステキなロケーションである。しかし、今日はそれでも前回の3月よりは明らかに水量が少なく、この発電所の放水口より上ではかなりライニングダウンを強いられそうな予感がした。
 
と、そこへやっとイシカワ顧問が到着。今朝は思いっきり寝坊したのが原因だが、無意識のうちにこの根尾川を避けるよう、本能的に体が起きなかったのかも知れない。前夜も降り続く雨に

「瀬のパワーが上がってないか心配...」

とメールを打ってきたぐらい、来る前からトラウマの幻に悩まされているイシカワ顧問であった。そして彼はその原因である問題の瀬と7カ月ぶりに対面すると

「う〜ん...」

と言ったきり、困惑したような笑顔で固まってしまっていた。

 結局「とりあえず、左岸に寄せて様子を見てポーテージ(←すでにポーテージが前提になっていた)」という作戦を確認してアウトポイント探しに向かう。
 7〜8km下流の「神海」付近で橋を渡ったところを左に折れると野球のグラウンドがあり、その奥にはブッシュの間に車1台がやっと通れるわだちの道が川原へ向けて続いていた。その先の川原をアウトポイントとし、オレの車とうーやん隊員の車を置く。
 上流のエントリーポイントは前回と同じく「目当」付近の製材所下の川原からである。
 午後約12:30分。なぜだかいつもよりかなり緩慢な動きで準備をしていたイシカワ顧問を最後に、ウェットスーツに身を包んだ我々4人は、遂に根尾川へと漕ぎだした。

 前回はパドルを忘れて「いいなぁ、くそー!」と見送ることしか出来なかったオレだが、今回は違う。イシカワ顧問以外はみんな初めてというのにリベンジ! というよくわからない状態だが、とりあえず隊長たるもの、メンバーの仇はとらねばならんのだ。今日はイシカワ顧問とうーやん隊員がAIR・カラカルで赤いフネ2艇、オレとシミズ隊員がスターンズ(リバーランナー&レイカーソロ)でオレンジのフネが2艇と、妙なペア・カヌー2組という布陣である。

 予想通り今日の根尾川は水量がいまひとつ少なく、断崖絶壁の山間部を流れている最初の500mくらいはやたら穏やかで、そして浅かった。しょっちゅう引っかかってライニングダウンする。川が大きく左にカーブした先には、イシカワ顧問の記憶によると少々瀬があったとのことだったが、ゴツゴツとした岩場があるばかりで、ここもやたら岩がツルツルして滑る水の中を歩くハメになる。

 くそー、とてもじゃないが、こんなことじゃピッコロ大魔王に勝つための無敵モード(←しつこい)まで調子に乗るどころではない。
 しかしロケーションの良さが我々を救ってくれた。確かにここは素晴らしい景観である。空からは、断崖絶壁の上の両岸の木々から離れた落ち葉が、日光を反射してキラキラと輝きながらゆっくりと回転して雪のように降り注いでくる。なぜ他の川にはこれが無いのだろう。いや、気が付かないだけなのか? とにかく根尾川に来ると出会う、木の葉の空中ショーだ。

 木の葉はこの他にも水中ダンスで我々を楽しませてくれた。澱みでは、なぜか水中のいろいろな深さを木の葉が流れており、光を反射しながらくるくると回って見せてくれる。木の葉は水の上を流れるか沈むかだと思っていたのだが、完全に浮かず沈まず、水と混じり合うように水の中の色々な所をゆっくりダンスをするように回りながら流れていく。思わず水中をのぞき込んで見とれる我々。櫛田川と同じような優しい気持ちになる心地良さが我々を包んできていた。
 
 しかし、巨岩の間を縫うように流れている箇所を過ぎると、発電所とおぼしき建物が前方に見えて来た。いよいよである。2000年の員弁川“魔の撃沈カーブ”に続き、
チーム“鮫”2001年最大の難所と言っても過言ではない、根尾川“発電所の瀬”が目前に迫る。調子に乗ったイシカワ顧問が、撃沈しただけでなくホールに捕まり、水は飲むわ水底に吸い込まれるわで「本気で死ぬかと思った」あげく、パドルとポンプまで流出させて「流木パドリング」で命からがら生還したという伝説の瀬である。

 発電所の放水口からはいつもならかなりびびるぐらい大量の水が勢い良く吐き出されていたが、オレはそんなものは気にも留めなかった。恐怖の対象はその先にあるのだ。瀬の状態をなるべく間近で見るため左岸ではなく、ギリギリまで近寄って流れの真ん中の岩場に強引にフネを着け、岩に登ってみる。
 4〜5m横には1.5m前後の落ち込みに、水がモノ凄く勢いよく流れている4級程度の瀬が大きな音を立てていた。前回より水量が少ないってコトは、コレで勢いは落ちてるほうなのだろうか? しかし逆に水位が下がってる分、落差は大きくなってるってことぢゃあ...。

「うぐっ...」

 思わず一瞬息を飲んでしまう。その瀬は途中の大岩で流れが二つに切り分けられており、左にストンと落ちている方は相当落差はあってもまだ素直な感じに見えた。しかしかなり狭い。ちょうどフネ一艇がやっと通れる程度だが、コントロールが上手ければなんとか行けそうだ。
 一方、前回イシカワ顧問に竜宮城の切符を売りつけようとした恐怖のキーパーズ・ホール付きの邪悪な瀬は、明らかに突っ込んだフネを強引に左半回転させるような構造で、横向きになってから1.5mくらい落ちろと言わんばかりの凶暴なビジュアル・フェロモンをマイナス・イオンの代わりにプンプンと発散していた。
 しかもそこには右岸の岩肌からの返し波だけでなく、落ち込み自体が作り出す超・強力なボイルが、
地獄の釜のようにボコボコシューシューと沸き上がって煮えくり返っている。アレに落ちたら洗濯機で溺れるネコの気持ちがわかりそうである(わかりたくないけど)。あの天竜川の難所・鵞流峡の一番強力なストッパーを、当社比250%増くらい性格悪くしたような瀬だ。
 
 しかし! 庄内川の4級オーバー“エビス殺しの瀬”を、マグレでもクリアしていたオレには勝算があった。
 右岸ギリギリからまっすぐトップスピードで突っ込み、瀬に落っこちる瞬間右パドルをフルパワーで叩き込んで「水上ドリフト」ならぬ「瀬中ドリフト」をカマせば、地獄の釜の上に真っ直ぐ降りられるハズだ(って、そんなにウマくいくのだろーか...)。
 
 岸を見ると
「じゃ、ご冥福を祈ります」と一礼したイシカワ顧問が、カラカルを担いで岩場を歩き出している。シミズ隊員とうーやん隊員には左の素直なコースを指して「ここなら降りられるかも」と、ひとこと言うとオレはシャーク3号(スターンズ・リバーランナー)に飛び乗ってサイ・ストラップをヒザに引っかけた。



 流れの緩いところを選んで少し漕ぎ上がる。思い描いた進入コース通りに流れに乗り、予定通りの最高のルートで最悪の瀬に突入した。落ち込みに入り、フネが傾く瞬間を狙って右パドルを力一杯漕ぐ。ズバンッ! という衝撃とともに地獄の釜に突っ込むが、スピードが出ていたせいか泡の上部をかすめるように胸までぐらいしか波が当たってこない!
  しかし一瞬で超・水船となったシャーク3号はそのまま捕らえられて水中に沈みバランスが...。だが、ここで腹筋を効かせてサイ・ストラップでフネを引きつけるテクニックがオレを救った。バランスを持ち直したシャーク3号は次の瀬に突っ込む!  
 次の瀬はさっきのに比べれば子供並みである。ど真ん中を突っ切ってオレはガッツポーズをとった。

「発電所の瀬、クリアー!!」

 本当は反転して後を見ながらやりたかったのだが、まだバランス次第ではスライディング沈してしまいそうな位置だったのだ。
 安全な所まで出て振り返ると、オレと同じコースを来た“チャレンジャー”うーやん隊員が
フネに掴まって流されてくる所だった。撃沈したようだが、フネにしがみついたせいか、幸いキーパーズ・ホールには捕まらずに済んだらしい。

 シミズ隊員は左の、狭いが素直な瀬の所を降り、一瞬フネごとかなり水中に沈んだかに見えたが、なんとか無事脱出してきていた。
 そして無我夢中で気が付かなかったが、下流側から余裕を持って見てみると“発電所の瀬”は、あの、櫛田川と同じ
“透明な瀬”だった。人間に例えると「性格の悪い美人」とでも言った所なのだろうか...。

 だが遂に今シーズン最大の禍根を断ち、我々はリベンジに成功したのだ。そこでトラウマに負けてポーテージしてしまったイシカワ顧問は、追いついてきてつぶやいた。

「なんかボク、最近、チキン街道まっしぐらみたい...。」


 その後はまた、ステキなロケーションの瀞場がしばらく続いていた。発電所の放水口から下は水量も非常に豊富となり、ライニング・ダウンする箇所は無くなった。
 しかし根尾川は荒っぽい、感情の起伏が激しいとても男性的な川であった。瀞場をまったりと漕ぐ我々の前から、またしても瀬音が聞こえてくる。1〜2級の瀬がいくつか断続的に現れ、我々を楽しませてくれた。
 が、中にはタマに突然3級弱のが混じってたりして、油断していると時々ヒヤッとする。「鍋原」の鉄橋を越えた先にも、増水の宮川で出会ったような右カーブ・岩壁がらみの3級があって、かなりびびるが無事クリア。この先は山が開けて流れも穏やかになると思われた。

 しかし14時ちょっと前、ランチポイントを探し始めた我々の前にゴツゴツした低い岩場が現れ、流れが緩やかに二つに分かれている箇所が見えた。すでに前回のアウトポイントを過ぎてしまっているのでここは未知の領域である。
 (右か?)と思うが、なんとなくみんな左に行くので付いていくオレ。と、イシカワ顧問が流れの真ん中でワザと岩に乗り上げて止まり、前方を見ている。シミズ隊員は先に行くようだ。オレもシミズ隊員の後を行くが...

「!!!」


 ザラ瀬かと思った所は100m近くに渡って白い波を立てていた。しかもその途中にはかなり強力な落ち込みが見えた。 

「うおぉぉぉっ!」

 思わず唸りながら落ちる! 前方のシミズ隊員の姿が波頭の下に何度も消えるほど落差のあるバウンドが続く。右から流れが合流しているところは3級が2・3個絡まっているヤバい瀬だったがなんとかクリア。ふと振り返ってみると、右岸からの落ち込みは一発だが、なんと
4級オーバーの落差ではないか! 

「うわぁ、右から行ってたら冗談じゃ済まなかったなー!」

 オレはアセった。それはまるで“発電所の瀬”をクリアして弛んでいた我々に、根尾川が仕掛けたトラップのようだった。シミズ隊員に追いついて

「先頭で突っ込むなんて勇気あるねー」

と言うと、

「いや、行く気は無かったんですけど、もう止まれなかったんで仕方なかったんです」

 とのことだった。
 そうなのだった。イシカワ顧問は岩で止まれたが、シミズ隊員は吸い込まれてしまい、先の瀬も読めぬまま必死でクリアしてきたのだった。
 うーやん隊員もイシカワ顧問に続いて、最後尾ながら無事クリアしてきている。“発電所の瀬”から生還して確実にウデを上げているようだ。
 そしてよく考えるとシミズ隊員は“鮫”入隊以来、「ノー沈」なのである。「今日のメンバーはなんかスゴい!」思わずそう思ったオレであった。

 そして中洲に上陸した我々の本日のランチメニューは、イシカワ顧問たっての要望で
“今だからこそ、牛肉料理を食べようキャンペーン”として米国産牛肉を使った激辛・台湾&韓国&日本友好ラーメンであった(すがきやの台湾ラーメンと韓国直輸入の辛(ジン)ラーメンと、なぜか出前一丁のブレンド)。

 これは台湾で牛肉入りの辛味ラーメン・牛肉麺(ニュウロウメン)を食べてそのアジアな旨さにハマっていたオレが、今回は根尾川ってコトで寒そうだからカラダが暖ったまるものにしようと考えたものである(もちろんニラたっぷり入り)。
 
 狙い通りカラダがポカポカしてきた我々は、今度は眠気をこらえながらアウトポイントまでトロトロと漕ぎ、16時すぎ、約10kmの行程を終えて無事に根尾川から上がったのであった。


今回の教訓: 「リターンマッチは必ず勝て! でもホントにヤバい瀬は、やっぱりポーテージしよう」