活動記録其の38・根尾川編part−3
文:隊長
2002年4月27日
イシカワ顧問、根尾川リベンジ!! “発電所の瀬”は今年も最大の難所となるのか!? 
〜そして“鮫”の三大急流に新たなトラウマを背負った男とは!?〜
名古屋カヌーチーム“鮫”には「日本三大急流」に習って「“鮫”の三大急流」がある。その三つとは@「根尾川」・A「庄内川」・B「板取川」だ(最近認定)。今回はその三大急流の中でも、我々には最も馴染みの深い根尾川に、今年初チャレンジである。その結果は...。

 チーム“鮫”ゴールデンウィーク・シリーズ第1弾となった4月27日(土)午前約12時(適当)、岐阜県・揖斐川の上流、いつもの轟音とどろく根尾川“発電所の瀬”の上に掛かる橋の上にはオレ(隊長)、シミズ隊員、うーやん隊員、そしてsakuzo隊員という、これまたほぼいつものメンツの姿があった。
 眼下の根尾川は、前回よりも豊富な水量のようである。当然のようにあの、イシカワ顧問にとって最大のトラウマとなってしまい、昨シーズンはリベンジに行ったにも関わらず、結局ポーテージしてしまうというスーパー情けない姿をさらしてしまった(※根尾川編part−2参照)
恐怖の“発電所の瀬”は、さらに数段バージョンアップされ、凶暴にバーリトゥードなルックス(意味不明)で猛り狂いながら我々を威嚇している。

 空を見上げれば今日も晴天。なんだか根尾川に来る時はいつも天気には恵まれるようだ。しかし川自体との相性は決して良いとは言えないような気がするのは気のせいだろうか? この水量、このパワー、発電所の放水口からは非常に景気よく水が放出され、やたら激しい水流となっている。この感じはどこかで...。そうである。まさにこれはイシカワ顧問が独り鮫で初チャレンジした時のあの、脅威の根尾川の水量ではないか。
「うーん...」
オレが唸っている隣では、比較的このヘンが地元で、先日根尾川をスカウティングに来ていたsakuzo隊員が
「こ、これはイカン! これじゃあ
増水してる時のが安全じゃないですか!
と、いきなり驚きの声を上げている。長良川上流域をテリトリーとし、すでに“鮫”内部では“No.1の使い手”の呼び声も高いsakuzo隊員のこのセリフにみんな、より恐怖をかき立てられる。
 と、そこへ
またしても寝坊したイシカワ顧問が到着。どうも「根尾川」と聞くと無意識のうちに防衛本能が働くのか、なぜだか遅刻してしまうイシカワ顧問なのだった。
そしてまたしても“発電所の瀬”に対面するイシカワ顧問。
「ええ〜!?」
と言ったかと思うと、前回と同じようにまた困惑したような笑顔で固まってしまった。

 とりあえず、心配していたように「増水で左岸が無くなっている」という状況ではないため、
ポーテージ可能(←すでにポーテージが不可能なら、やらないことになっていた)と判断した我々は早速エントリーポイントへ向かう。
 しかし、なんといつものエントリーポイント、「目当」付近の製材所下の川原へは降りられなくなっていた。どうやら橋を架ける工事をしているらしい。
 仕方なく樽見鉄道「目当」駅を回って対岸の道路を走り、結局
謎の道路を歩いて河原へ降りる道を発見した我々が、カヌーセットを担いでとんでもない急斜面の藪と林を抜け、やっと河原でセッティングを開始したのはもう午後約12時30分だった。出が遅くなったのと、河原への道が超ハードで汗だくになってしまい、もうビールが飲みたくて仕方なくなっていたので、今日はまずこの河原で昼飯を食べてから出発することにする。

 今日のメニューは実は、給食当番を決めていなかったのと、前日にオレが遅く帰ったことなどでまったく準備がなされておらず、結局カップヤキソバ
「UFO大盛り」&「一平ちゃん大盛り」となってしまっていた。しかし、結構ウマい。しかも一汗かいた後なのでビールもよけいにウマい! 河原の上方の鉄橋を樽見鉄道の2両編成の電車が轟音をたてて通過していく。窓から外を見ている人は居ないようだ。くそー、うらやましがらせてやろうと思ったのに。って、こんなの「うらやましい」と思うのは我々だけだろうか...。
 そして近々カップではなく、ちゃんとしたヤキソバをやることを固く心に誓った我々は昼食も早々に約13時20分、根尾川へと漕ぎ出す。

 今日はイシカワ顧問とうーやん隊員がAIR・カラカルT、sakuzo隊員が同じくAIRのリンクスU、オレとシミズ隊員がスターンズ(シャーク3号・リバーランナー&“飛騨之守2”レイカーソロ)という布陣である。本当はsakuzo隊員は新購入したGUMOTEX・サファリをおろすつもりで持ってきていたのだが、増水した“発電所の瀬”に不安を覚えて結局、安定度バツグンのリンクスに日和ってしまっていた。

 今日も根尾川のロケーションは素晴らしい。断崖絶壁に挟まれた峡谷を流れる清流はまたしても我々を魅了する。水量も前回は少し少なくて、スイスイとは行かなかったが、今回は比較的スムーズだ。オレは小さな瀬をいくつか越えた頃にはもういつもの極楽気分に浸っていた。水質がよいため水中をのぞき込むと下の岩場の景観がよく見え、またしても落ち葉がくるくる回って流れていくのが確認できた。やはり根尾川である。

 しばらく行くと巨岩の間を縫うように流れている箇所が現れる。このちょっと後がいつものように問題のポイントだ。またちょっと行くと発電所が見えて来る。
また来てしまった。まだ見えないが、チーム“鮫”2001年最大の難所、根尾川“発電所の瀬”が轟く音で我々に存在をアピールしてくれている。

 左岸からの発電所の放水も、なんだか前回より多いようだ。角度をつけて斜めに突っ込むが予定のコース取りができず、ハネ返されたように右岸に寄せられてしまった。しかし“発電所の瀬”の手前は流れが一時的に緩くなっているため(ってゆーかダム状になってる)、前回と同様、真ん真ん中の岩に漕ぎ着けてスカウティングする。
 岩に登ったオレの眼前には、ちょっとシャレにならないものが見えた。
 水量が増えているため落差はちょっと少なくなっているが、代わりにやたら
水圧高そうな返し波が豪快な飛沫をあげている。思わず映画で見たダム決壊シーンで吹き出す鉄砲水を連想してしまう。もう3級とか4級とか、ソロバンじゃないんだからどーでもいーじゃない! ってヤケクソな気分になるようなヤツが目の前で暴れていた。怖すぎてセリフもでない。sakuzo隊員が状況を聞いてきたが、言葉では説明しようがないので岩に上がってきてもらう。

「うわー! これはスゴイ! やっぱりここはもっと増水してる時のが安全ですよ!」

 なんだかよくわからないが今日は日が悪いらしい。
きっと仏滅に違いない。いや、ついでに「さんりんぼう」でなおかつ13日の金曜日かも...(←27日の土曜日です)。
 一番右のいわゆる最強“発電所の瀬”は、死者より怖い行方不明者を出しそうな勢いのため、強がりで突入できるレベルではないと判断。残るは前回シミズ隊員が通った、岩のちょい左をストンと降りるコースと、水量が増えたため今日は通れるようになっている左岸寄りの岩場の隙間コースのどちらかだ。岩の左コースは大岩の横に斜めに落ちているため、ドリフト気味に進入して行かなければならないが、今日は流れが速く、フネの右を岩に引っかける確率が高そうだ。しかも降りたあとスグの狭い所で岩場の隙間コースからの流れがハイスピードで合流しているため、バランスを崩している所をヒネられそうでこれもかなりヤバい。
 結局一番安全そうな、岩場の隙間コースを行くことにする。うーん“鰯”? いや、それを言うヤツはあの水量でクリアしてから言ってもらおう。
ムリだって。マジで。

 しかし岩場の隙間コースも、流れはまっすぐだが、下に隠れ岩が多く、引っかけて向きを変えられるとその先のデタラメに激しいボイルがあちこち湧いている地雷原みたいな所に横向きに入ることになってしまう。その途中で右岸からの激流が混じり込み、その流れが混ざった所の真ん中にデカい黒岩が嫌味に尖って白い濁流をまっぷたつにしている。あれに張り付いたらカヌーを始めたコト自体を後悔しそうだ。
 オレは意を決してフネに乗り込むと、例によって少し漕ぎ上がる。この数分でアタマにたたき込んだルートをイメージしながら岩場の隙間コースへ。一番狭い所で隠れ岩に乗り上げる感触があったものの、強い水流が勢いよくオレとシャーク3号を押し流す。右からの合流! バウンドするがリカバー! また合流でデカい波に乗り上げて船首がハネ上がる! 抑え込んでクリア! 激しく揺さぶられるが、黒岩の右を無事に抜けたオレはガッツポーズを忘れなかった。

 左岸の岩場に漕ぎ寄せて上陸。岩場伝いに戻るって見ると、今度はうー隊員が同じコースを進んで行く。激しくバウンドするが、うまいことオレと同じく黒岩の右を抜けてクリア! 昨年のリベンジを果たすうー隊員。
 そして次はなんとイシカワ顧問である。今日は前回のリベンジのリベンジである。ポーテージせず、突入することにしたらしい。うー隊員と同じコースを進み、黒岩には命中しそうになるが、なんとかクリア。ついに比較的安全コースとはいえ、根尾川“発電所の瀬”をクリアしたイシカワ顧問の顔には
自信が戻ってきていた。続いてsakuzo隊員である。みんなと同じコースを進み、当然のようにクリアしていく。さすが“鮫”No.1の使い手だ。後で一番右の最強“発電所の瀬”コースも行けたかも...と悔しがっていたsakuzo隊員であった。
 さて、残るのはシミズ隊員である。シミズ隊員は前回この瀬をスルリと抜けている。今回は我々と同じコースを...と思ったらフネを岩場に引っ張り上げている。
「?」
 ポーテージコースである。どーやらこの轟音を立てる、前回よりグレードアップした“発電所の瀬”に完全に恐れをなしてしまったようだ。どうも“鮫”の三大急流・板取川で人生初撃沈をして以来、完全に“鰯”になってしまっているらしい。もう不沈記録を更新し続け、チーム“鮫”のアンブレイカブルと呼ばれた頃の面影は微塵も無くなってしまっているシミズ隊員なのだった。うーむ、なんとかして自信を取り戻させるような方法を考えなければ...。

 結局シミズ隊員のみポーテージで“発電所の瀬”をクリアした我々は、再び爽快なダウンリバーを開始した。ここからの根尾川は結構楽しめる瀬と、いー感じの流れの所が続く素敵なワンダーランドである。次々と一番波が立っている箇所を見つけては突っ込んで遊ぶ。天気もいいので、飛沫をかぶっても気持ちいいだけである。
 鍋原の鉄橋をくぐってしばらく行くと、来る時のスカウティングでちょっとびびった左岸寄りの流れが右カーブして岩にぶつかっている瀬に到達する。増水時の宮川で出会った瀬とよく似ているが落差はワンランク下である。顔面から思いっきり水をかぶり、一瞬前が見えなくなってグラついたがなんとかクリア。楽しいものだ。
 さらに進み、初めて来た時のアウトポイント「佐原」付近に到達する。
 山が少し開けた所に出ると、なにやら思い切り見覚えのある不吉な二股の流れが見えた。そうである。ここは左が結構強力な瀬になっているが、右は最後に4級オーバーの滝のような落ち込みを伴う瀬がある所だ。やはり左を選ぶ。
 しかしここも前回より水量が多いため、バウンドもウェーブもパワーが上がっていてかなりヒヤリとする。前回先頭で突っ込んだシミズ隊員は、ここでも他の隊員の後に回る密かな新技・
「ストーカー航法」で“鰯”ぶりを発揮してしまっていた。

 前回のランチポイントの中州を通過、ここは左岸寄りに行くと崖があり、中州の岩も崖と言っていいほど高く、ちょっと薄暗いのと相まってとても神秘的な感じがする。透き通った水面下を行く魚影が見える。根尾川は瀬だけでなく、やはり水質とロケーションもとても楽しめる川なのだ。だからコワいのに何度も来たくなってしまうのだろう。

 今回は前回よりさらに距離を伸ばし、約12kmのコースである。前回のアウトポイントも超え、またしてもここからは未知の領域だ。と、「神海」の橋の下付近にいきなり前方の水面が切れている所が。そしてゴーゴーと響く音...。
 堰堤だった。地図にない堰堤なので、作られてからそんなに経っていないのかもしれない。見てみると左岸に武儀川のものよりちょっと大きいが、同じタイプの折り返し型魚道があった。フネを流しながらコントロールし、魚道の縁を歩いていくことにする。意外と楽に通過できた。

 そして再び、完全に山が開けたロケーションとなった根尾川を行く。もう大した瀬もあるまい。と思ったが、やっぱりアマかった。
 ゴール直前にまたしても2級前後のステキな瀬が、我々の完漕を祝福するかのように待っていてくれた。しかしここまでノー沈で来ている我々には、爽快以外の何者でもない。歓声を上げながら次々とクリアし、17時少し前、我々は本日のアウトポイント・東村のヤナの前の河原に接岸。根尾川から上がった。
 日が傾き、少し冷えてきた河原で湧かして飲んだコーヒーが、とても美味しかった根尾川ツアーだった。

今回の教訓: 「トラウマは、いつか破れ! 持ったままだと精神衛生上良くない」