活動記録其の58・根尾東谷川編part2
文:隊長
2002年9月14日
渓谷のスラローム大会!
〜秘境の清流・根尾東谷川で襲い来る隠れ岩の連打!!〜
  根尾東谷川はプチ・ホワイトウォーターである。
 先日sakuzo隊員とアビルマン隊員が平日自主トレで下ってきて、その清冽さとステキなロケーションに感動しまくってしまったのがこの根尾東谷川である。特にアビルマン隊員は
アブに刺されまくったにも関わらずかなり気に入ったようで、やたらと良かった良かったを連発して、もう一回行こう! スグに行こう! と、しつこく・しつこく・しつこーくメールを打ってきていた。

 そこでこの9月の3連休でホントはキャンプツーリングか、雲出川のみで行こうと思っていたオレの計画に突如割り込む形で今日のツアーは決定した。てなコトで根尾東谷川・雲出川連発ツアーである。

 さて、いつもの根尾川沿いを車で北上していくと、そこには無惨にも河床が完全に露出してしまっている
超・渇水の根尾川の姿があった。いきなり不安になるが、アビルマン隊員によると前回もこんなもんだったらしい。しかしそれならそれで、この根尾川に普通に水量がある時は上流の根尾東谷川はいったいどんな水量になっているのだろう?
 などと考えながら登って行き、いつものエントリーポイントを越えて、薄墨桜で有名な根尾村あたりまで来ると、なぜだか川には意外と水量があるように見えた。途中に発電所の取水口や農業用水の取水口でもあって、そこでほとんどの水を取ってしまっているようだ。ということは、この上流には下流の根尾川が渇水の時でもそこそこの水があるということになる。なんだかニッポンの川は謎である。

 根尾村役場でアビルマン隊員、うー隊員、ためごろう隊員と合流する。そこからさらに根尾川を遡る。根尾東谷川と根尾西谷川が合わさって根尾川となっているのだが、西谷の方は以前福井から帰ってくる時にずっと走ってきた国道157号線沿いなので通ったことはあった。オレにとっては東谷川の方が未知の領域である。アビルマン隊員の先導で根尾東谷川方面へ向う。山の中の集落を抜ける狭い狭い山道があり、そこが根尾東谷川の今回のアウトポイントとのことだった。
 一応、下にコンクリートを敷いた痕跡のようなものがある、
クソとんでもない坂道30mほど降りると川原があるということだったが、見たところその草ボーボーで倒木がゴロンとしている怪しげな道はもっともっと続いているように見えた。
 
 とりあえずそこに2台車を置いて残り2台で上流へ向かう。が、
いきなり道に倒木がどかんと落ちていて通れず、引き返すことになってしまった。おもいっきり先が思いやられる展開だ。
 ってゆーか、なんて山ん中なんだ。
本当にこんな山中にカヌーで下れる川があるのだろうか? と普通に疑問を持たざるを得ない所である。しかし福井の笹生川の例もある。たしかにこんな雰囲気の所でもそこそこ水量のある川が流れている可能性はある(ってゆーか、先日ここを下ってきたヤツが道を先導しているのだが、いまいち信憑性がないってコト!?)。

 回り道をして、なんとかエントリーポイントに到着。エントリーポイントはなんだか普通な感じだ。雰囲気としてはアビルマン隊員が言っていたように牧田川っぽいロケーションだ。さっそくフネを組み立てる我々。今日のオレはオレにとって初めての川というのと、両側が山に囲まれて切り立った山中という
“鮫”的には不吉な予感が漂うロケーション(※過去の活動記録参照)から“シャーク3号”スターンズ・リバーランナーで来ている。  
 しかし2回目のアビルマン隊員はヘルメットも被らずノンキにいつもの“激烈最強号”GUMOTEX・サファリ、うー隊員も同じ“激烈うーやん号”GUMOTEX・サファリで今日も赤い2連星だ。ためごろう隊員はオレと同じくスターンズ・リバーランナーである。従って、今日は同じフネが仲良く2艇ずつ、しかも赤2つにオレンジ2つという暖色系のカヌーが4艇というハデハデさかげんだ。
 そして根尾東谷川は、この暖色系のカヌーがとてもよく映えるような、薄くコバルトブルーがかった透明な水を湛えていた。
いや、訂正。湛えていたのではなく、ザァザァと流していた。そうである。この川は流れまくっていた。
 水量は少なく、やたら浅いのだが、なんとかギリギリ我々のダッキーが通れるくらいの微妙な水深はある。だが、ちょっとでも隠れ岩があるといきなり引っ掛かって止まってしまう。そして止まってしまうだけならいいのだが、途中でちょっとデカい岩がある所だと、クルンと方向が変わって張り付いてしまうのだ。

 午前約11時、根尾東谷川にエントリーした我々は、イマイチすぐれない曇天の下、反射で水面下の岩が見えにくい所をズリズリと引っ掛かりながら進んでいった。
 このシチュエーションは昨年の初めて行った時の豊川のようである。あの時と同じく水面下の隠れ岩に悩まされる。そして豊川と決定的に違ったのはその「斜度」であった。この根尾東谷川はかなりな斜度で流れており、水量は少ないのだが、流れはキツイ。それで岩に張り付いてしまいやすいのだ。
 しかしロケーションはとにかくいい。アビルマン隊員が前回のレポートで書いているように牧田川+武儀川というのもうなづける。“鮫”的にいい川というのは、やはりどこか似通っているのかもしれない。

 しばらく行くとちょっと大きな橋が架かっている所へ出た。相変わらず流れは速い。橋の下くらいの所で釣り師が一人仕掛けをいじっていた。釣っていないようなので構わず通過しようとするが、とりあえず声を掛けてみた。
「こんにちわー」
するとこちらに気づいて、コンマ2秒くらいで返事が返ってくる
「今日は釣れんなー」
オレはニコやかに
「そうですかー」
といって通り過ぎた。こんな曇天でも釣れないなんて、こんな山の中まで来てるワリにヘタクソなのかと思うが、後からアビルマン隊員が言うには
「あれは、『お前らが通ったからもう釣れなくなった』って意味じゃないですか?」
とのことだ。そーか、イヤミだったのかと、後で気づく。そう思うとこコンマ2秒くらいで
速攻イヤミが出てくるとはアタマのいいヤツだ。とヘンな所で感心しながらも腹がたってきた。
 こんなステキな渓流まで来ても結局人間同士のいさかいが気分を害してしまうもとになるのが残念だ。釣りに来ただけで、いきなりそこを自分の領地のようにカン違いするヤツが多いのが不思議でもある。

 そんないざこざも関係なく根尾東谷川はザァザァ流れ続けていた。とても流れはウネっており、瀬も小さいが結構たくさんある。隠れ岩が相変わらず我々を苦しめた。 
 またしばらく行くと右岸の上に家があって、そこはどうやら裏庭らしく、
家族総出でガーデンランチを摂っているらしい風景が見えてきた。おじいちゃん・おばあちゃんからお父さん、お母さん、そして子供も大・中・小と完全無欠の一家総出状態だ。とてものどかなニッポンのお昼風景だ。こんなキレイな川が目の前に流れていたらオレだったら毎日ガーデンランチとガーデンディナーにしてしまうことだろう。
 「いいねぇ〜」
と、よそ見していると前方にまた瀬である。コースを選ばないと引っ掛かってしまうので気が抜けない。大きな右カーブを抜けると左側の斜面が崩れ、一部川になだれ込んでいる所があった。2ヶ月ほど前の大雨で崩れたらしい。通行止めにもなるはずだ。崩れた土砂の中にガードレールの残骸が見えて少しビビる。
 その後の長瀬の最後に、崖に当たって流れが直角になっている所があった。瀬を出た瞬間に左方向に速攻ターンしなければならない所だ。うー隊員はうまくクリア。オレもなんてことなくクリア。が、続くアビルマン隊員が
「おわぁー!」
という絶叫と共に崖の手前でターンに失敗して撃沈。相変わらず瀬のヤマ場は無事に越えるのだが、その後のフォーロースルーができていないアビルマン隊員であった。
 そこからまたしばらく行くと大きな岩が増えてきた。爽快に小さな瀬を次々滑り降りてご満悦だった我々の間に徐々に緊張感が漂ってくる。なぜならこの先にはかなりデカい、滝のような落ち込みがあるらしいのだ。
 先日来たアビルマン隊員は地元のおじさんにこの落ち込みのことを事前に聞いていたため、用心深く行って避けることができたという所だ。迂闊に落っこちたらヤバいクラスの所だというのはオレにもなんとなく伝わってきていた。
 果たしてそれは
落差2mはある滝だった。アビルマン隊員曰くの
「1mぐらいの落ち込み」
とはケタ偉いに話が違っていた。しかも落ちた所の岩肌には、岩が丸く削り取られたかのような穴が開いており、その中は
洗剤を入れすぎた洗濯機のように真っ白に泡立っていた。これはもう瀬ではない。思わず「洗濯機の滝」と名付ける。
 両岸が切り立った崖になっている場所で、ポーテージできなければ脱出も不可能に近い深い渓谷である。その谷間に轟音を轟かせて
渦巻く滝壺は、その下にいろんなものが沈んだまま浮いて来れていないのを簡単に想像させる恐ろしいものだった。
 また前回のレポートでアビルマン隊員が無責任にもオレなら越えられると書いていた、滝とは反対側にある左の流れは、スカウティングの結果、岩がゴツゴツ多すぎて引っ掛かってしまいそうで、落差も急であることからフネでまっすぐ降りるのは困難であると思われた。我々は流れの弱い所を歩いて渡り、真ん中の大岩の上をフネを運んで横切る
遠距離ポーテージ作戦に出ることにした。
 しかし真ん中の大岩からフネを下ろしても、そのスグ下には体勢を整える間もなく
ヒネリの入ったイヤらしい瀬が待ちかまえている。アビルマン隊員は
「ここだけ前より水量が増してる〜」
などといきなりアセっていた。前回は滝だけポーテージすれば後はなんてコトなかったようだ。ひいひい言いながらフネ4艇を大岩の上の15mほどの距離を運んだ。
 続いてうー隊員、ためごろう隊員、アビルマン隊員の順に再エントリーする。フネに乗り、スタート前にサイストラップを引っかける必要があるため、一人がフネの後ろをつかんで流れていかないようにサポートする。準備が出来次第順次スタート。全員ちゃんとヒネリのある瀬をかわしながらクリアして行った。みんななんだかんだで結構巧い。特にサファリ軍団など、ここぞという時にはかえって撃沈しなくなってきている。
 みんなを送り出した後、オレはひとりで大岩の上からシャーク3号を降ろし、水面に浮かべるとサッサと乗り移り、瞬時にサイストラップを付ける。こーゆーことだけは早くなっている。超・水船になりながらも普通にクリアしてみんなと合流した。

 その後少し両岸が開けてきた感じの所で右岸に上陸し、ランチとする。今日の給食当番はアビルマン隊員である。
 本日のメニュー「うどんすき」が出来上がる前にひとつの事件が起こった。うー隊員の足に小さな茶色いシャクトリ虫のようなものが動いていた。
ヒルだった。
「イヤ! イヤ! イヤー!」
と叫びながら足に吸い付いた
ヒルをちぎるうー隊員。見るとためごろう隊員の足にも登っている。オレも足元を見るが、今日は岩場だらけということでウェットを履いて来ており、しかもクツはハイカットのパドリングブーツで来ているため、オレはまったく肌を露出していなかった。当たり前のように一匹も付いていない。アビルマン隊員はアブには好かれるらしくまた刺されているが、血がマズいのか足を思いっきり露出しているのにヒルの姿はまったくない。謎の男である。ヒルを寄せ付けないオーラでも出しているのだろうか。

 ヒルに襲撃されながらもうどんすきを腹一杯食った我々は、三たび、根尾東谷川にエントリーした。
 後半も変わらずテクニカルに隠れ岩を発見しながらかわしていく、渓流スラローム大会であった。と、途中でまた釣り師が! しかも今度は2人である。  
 が、よく見ると一人は側流で釣っており、もう一人は釣り場を変えるため移動中であった。こんどは挨拶もなしに通過。しかしこんな足を踏み入れるのもカンタンでない山中の渓流で、上流からカヌーで下ってくるヤツがいるとは思わなかったのか、間近に近づくまで我々には気づいていないらしかった。真横を通過する時に初めて気づいたらしく、まるで
見ては行けないものを見たかのように目を丸くしていた。驚かしてしまっただろうか。ちょっと反省。
 が、オレ、アビルマン隊員、ためごろう隊員と通過した後、うー隊員が釣り師のすぐそばで
枝沈。ちょっと笑いを提供してしまったようだ。
 この辺りから倒木が川に落ちている所が増え、また上から木の蔓(ツタ)が垂れ下がっていたりする所も増えてきた。隠れ岩だけでなく、枝沈にも注意が必要になり、いよいよ難易度を増す根尾東谷川。流れにのって入っていくと
枝・枝・枝そしてまた枝、蔓・蔓・蔓そしてまた蔓である。避けられない時はパドルでなぎ払ったりするのだが、それでも体勢を崩してしまいそこでまた瀬や岩があると苦しい展開になる。
 流れが速く、トロ場がほとんどないため、緊張の連続だ。ゆっくりドリンクを飲むヒマやデジカメを取り出して写真を撮るヒマがほとんどないのだ。
 また相変わらず岩がイヤらしく出ていて、引っ掛かって方向が変わるとそのまま張り付いてしまい、早めに降りないと傾いたフネの中に水がどんどこどんどこ入ってきて動かせなくなってしまうのだった。みんな仲良く2〜3回ずつそんな状態になりながらも我々は進んでいった。
 
 約午後4時すぎ、我々はやっとアウトポイントである堰堤前の川原に到達した。正直言って瀬疲れ、いや、スラローム疲れした。しかしそこにはまだ、ひとつのトラップがオレを待ち受けていた。車を停めた車道から
「川原まで30mぐらい」
のハズだった斜面の山道は、
倒木だらけの100m以上ある急な登り坂だった。さすがアビルマン隊員である。目測をやらせたらオレ以上にテキトーである。

 そんなキッツイ坂道を、結局陸に上がってまで倒木を避けながら進むという苦行を重ねて、やっと車の所まで全装備を引っ張り上げた。川でのスリリングな緊張の疲れはいいとして、陸での荷役疲れは勘弁して欲しいものだ。
 しかしそんなコトを差し引いてみても、根尾東谷川は素敵な川だったといえる。また天気のいい暑い日に、来てみたい川だと思った。




今回の教訓: 「山中に清流あり。下流の水だけで判断してはいけない。
 でもヒルには注意!」