活動記録其の51・王滝湖編
文:隊長
2002年8月11日
高原の水は清冽で冷たく、濁って混じり合わない!?
〜謎の湖・王滝湖で晴れのち曇り、時々雨、そして晴れて霧で雷雨で晴れ!?〜
  王滝川に地震で崖崩れが起こり、埋まった土砂でせき止められてできた自然湖が王滝湖である。渓流釣りで有名なこの超・山の中へ、清流を求めて向かった今回のメンバーはオレ、シバタ親子隊員、やまちん隊員、優子隊員の5名である。

 当初アビルマン隊員がインターネットの渓流釣りのページでキレイな水の流れている所の画像を見つけたのが、始まりだった。オレも確か王滝川といえばかなり水のキレイな渓流と、どこかで聞いた覚えがあったので、下れるものなら一度行ってみたいと思っていた。
 そこで今回のツアーとなったワケだが、何やら王滝湖には
心霊スポットがあるというウワサがいつの間にか鮫内部に流布し、結局前日土曜の段階で参加者は6名となってしまっていた。当日朝、ドタキャンしたのは、前夜迷いに迷ったあげく、王滝湖行きを決定した危険なチャレンジャー、魚へんに危ないと書いて“鮠(はや)”(←命名アビルマン隊員)ことうーやん隊員である。実験動物を扱う仕事柄、日々殺生をしているうー隊員は信心深く、ユーレイ系のネタは苦手らしかった。それを気に病んだのか、はたまた単なる歳なのか、突然謎のギックリ腰痛となり、突如キャンセルするコトになってしまったうー隊員なのだった。
 この心霊スポット説の根拠というか、モトになっているのは「地震で亡くなった人がいるから」というものである。ってゆーか、天災で亡くなった人っていうのは王滝湖だけのコトではなく、むしろ近代に治水が成功するまでは長良川や木曽川とかの方が過去に、人口の多い中流・下流地域に大きな被害を出すような氾濫を繰り返しているだけ、犠牲者の数なら圧倒的に多いのだが...。やはり山中というロケーションがイメージを増幅してしまっているあたりに、日本人の山岳信仰・神秘好きの国民性の発露を見て取ることができるのではないだろうか(なんのこっちゃ)。
 
 しかし、果たして現地に行ってみると、自然湖の方の王滝湖は確かに水の中で立ち枯れた木々が湖面に無数に立ち並ぶ、不気味といえば不気味な感じのする所ではあった。
 しかも水がとても濁っており、なんだかあんまり漕ぎたい感じのする所ではない。仕方なくもう少し上流に行くことにする。王滝川ダムによってせき止められた方の人工・王滝湖は水質は見た感じイマイチながらも、山が少し開け、ロケーションはいい感じであった。
 さらに少し上流の王滝川からなんとかエントリーできないかスカウティングしてみたが、渓流の方は水が少なく、水力発電所の放水口から下は水量は豊富なものの、濁った水が勢いよく吐き出されていて、
ダムで汚れた典型のような川になっていた。こんなに山の中なのに...。また、エントリーできる川辺もあまりなく、これまた仕方なく、湖岸からエントリーして周遊するコースとすることにする。

 墓地の並んでいる神社(←ちゃんとお参りしました)の手前に車を停めた我々が、北側の湖岸から我々がエントリーしたのは午後約12時すぎであった。濁った水の中をかき分けながら湖の真ん中を目指す。
 オレは湖ってコトで当たり前のように“シャーク4号”GUMOTE・ヘリオス380EX、前席には優子隊員が乗っている。
 やまちん隊員は九頭竜湖から万水川〜犀川、そして今回が3回目となる国産ダッキー“やまちん2号”アキレスSW126だ。そしてシバタ親子鮫隊員は今回
新艇の進水式である。その名も国産ダッキーの雄・アワーズの“渡り鳥”だ。
 このフネは、外観はイシカワ顧問やうー隊員の愛艇・AIRカラカルに似ているが、左右のサイドチューブにボリューム感があり、横幅もかなり広く見える。安定性はかなりのもので、通常我々の行くようなコースでは沈すること自体難しそうだ。しかし長さはヘリオスと比べるとかなり短く、二人乗る安定性はあるものの、ちょっと窮屈そうに見えなくもなかった。やはり本来は一人艇なのだろう。
 
 とりあえず湖の真ん中へ向かい、そこから東に進路変更し、王滝ダム方面へ行く。と、岩場の角を曲がるとアッサリと目の前にダムが見える。やはりこのダム湖は相当小さいようだ。湖と言えば九頭竜湖とか浜名湖、といったイメージを持っているオレにとってはとても小さく感じる。千葉・亀山湖を漕ぎ慣れているシバタ親子隊員とて同じ感覚であろう。ダム前は水も淀みまくっており、なんだか気分はイマイチだ。が、前席の優子隊員はもうこれでも癒されているように
「はぁ〜キモチいい〜」
などと言っている。水の透明度は無いが、たしかにロケーションはよく、木々の発する森の空気のいい香りがする。これで水がもうちょっと良ければと、とても残念に思える。
 しかしダム前から引き返し、しばらく西に向かって漕ぐと、石だらけの中州が張り出している所の周辺で突然水質が変わり、
超・透明な水が我々の周りをとり囲んでいた。
「?」
 フシギに思ってよく見ると、ある特定の所から湖の水の色がクッキリと別れており、緑に濁っている所と超・透明な水とが、水中に何かしっかりと境界線でもあるかのように分かれて見える。どうやら南から流れ込んでいる王滝川の支流・白川の水が、透明な部分を作っているらしい。そこで白川の流れ込みに近づいてみることにした。
 果たしてその通りで、九頭竜湖にもあった川の流れ込みと同様、山の中から流れてきている清流・白川の超・清冽な水が、とてつもなくいい香りを放ちながら流れこんでいた。
 
良い水には「いい匂いがする」
 これはこの1年、あっちこっちの川に行った中で徐々にオレが感じてきていることのひとつだ。正確に何の匂いかはわからないし、とても微妙な「匂い」というよりは「香り」といった感じのするもので、慢性鼻炎のオレにわかるのだから、普通に鼻のいい人ならよく匂うのではないかと思う。とにかく山中の湧き水や、清冽で小さな水の流れ込みなどのある所で匂う独特の香りをオレは憶え始めていた。この白川にはスバリその匂いがしているのだ。
 
 そして透明度の高いガラス細工を見ているかのようなその流れは、昨年度のベストリバー・櫛田川の超・透明な水を以てしてもこれだけキレイだったろうか? と言えるほどの美しい水だった。そのまま流れに
顔を突っ込んで飲みたい衝動に駆られる、といったら言い過ぎだろうか。とにかく、同じ透明な水にもグレードがあるような気すらするほどの清冽さである。
 当然のようにその川原に上陸してランチタイムとすることに決定した我々は流れの中を頑張って漕ぎ上がる。しかし途中浅くなっている所が石に引っ掛かってどうしても越えられず、仕方なく降りてフネを曳くことにした。すると真夏だというのに、この山中から流れ出している清水は数秒浸かっているだけで足に痛みを覚えるくらいの冷たさなのだった。
「うひー! イテテテテテ!」
オレはフネを曳き、慌てて川原に上がった。まったく、雲は多いものの天気も悪くない晴天で日差しが暑いくらいなのに、なんでこの水はこんなに冷たいのだ。やまちん隊員が
「季節的に雪解け水とかではないですよねぇ?」
などと言うほど冷たい。
 自然の冷凍庫に穴が開いて、漏れだしてきたかと思うくらいである。その流れのすぐ横の川原に上陸した我々は早速本日のランチ、長崎とは何の関係もないけど王滝村・高原チャンポンメンの制作にとり掛かる。
 お湯が沸く間にオレは再びシャーク4号に飛び乗り、対岸に見える車の所まで戻る。なんとマヌケなことに、車の上に記録用のデジタルカメラを置いてきてしまっていたのだ。全速力で漕ぎ、約10分後、再びオレは白川の川原に上陸した。
 お湯はちょうどいい感じに煮立ってきていて、先に入れたシーフードミックスがいいダシを出している感じのぷぅんとした匂いが漂い、これまた食欲をそそる。  
 10人分用意してあったチャンポンメンだが、今回は参加者が減った関係もあって7人分だけ作ることにする。とてもシーフードダシの効いたチャンポンメンを我々もの静かに食した。今回はシバタ親子隊員と優子隊員、やまちん隊員という“鮫”的には
比較的もの静かな隊員ばかりが集まっているためか、食事風景もわりと落ち着いている(いつも騒々しいアビルマン隊員が居ないだけだってハナシもあるが)。そして高原で飲むビールはやっぱりウマく、シバタ隊員などはさらにオレの用意したウィスキーもグビリとやって
「ウマイねぇ〜(^-^)」
と上機嫌である。
 しばらくして、“鮫”的には初のメーカーであるやまちん隊員のアキレスと、これまた初であるシバタ隊員の新艇・アワーズの試乗会が始まる。両方ともダッキー界(?)では珍しく国産メーカーである。
 オレが乗ってみた感じではアキレスSW126は大きさもあり、また安定性・操作性もかなりいい感じだ。このサイズのフネをちゃんと操る技術があれぱ、かなり豪快な瀬でも攻められるポテンシャルがあると思う。しかし唯一の難点はやはりセルフベイラーがついていないことなのだろう。これでセルフベイラーがついていればカラカルかそれ以上の性能を発揮できるのではないだろうか。
 一方アワーズの渡り鳥は空気の入れ具合が少なかったのだろうか、ちょっと剛性が足りないような気もするが、安定性はバツグンで長さのワリに幅があるので、デザインとしては細長いというよりは丸っこい印象だ。サイストラップを付けていなければ、乗っている人間がどれだけ揺すっても転覆はしそうにない。過去に行ったコースの中でも「急流」だった富士川でも余裕でクリアできそうな感じだ。
 てな感じでくやしいが、二艇ともオレの“シャーク3号”スターンズ・リバーランナーより性能では上のような気がした。って、特に最近シャーク3号はファスナーが壊れて重心が上がり、安定が悪くなっているため、余計にそう思うのかもしれないが。
 
 さて、白川の流れ込みの所でプチ試乗会を行った我々は、最近恒例のアノ遊びを試みようとした。そう、PFDで清流を流されて遊ぶボディラフティングである。以前、牧田川でちょっとやってその浮遊感覚にハマってしまい、その後宮川でもそれだけでかなり遊んだ我々は、キレイな川に来ると必ず
“浮かびたく”なってしまうのだった。
 しかしこの白川は超・清流であるにもかかわらず、それすら断念させるほどの水温なのだ。頑張って腰まで浸かるがあまりの冷たさに
歯ぎしりしてしまう。心臓まで浸かったら普通に止まりそうな感じなのだ。結局夏の日差しは暑いが、水は痛いぐらい冷たいという不思議なシチュエーションのもと、ボディラフティングは今回はできなかった。残念。

 昼食後そんなことをして遊びながらまったりしていると今度は突然小雨がふり出してくる。しかしお天気雨のようで、寒くはないのでそのままノロノロと片づけつつまた遊ぶ。シバタ隊員の娘マイちゃんはさすがに元気いっぱいだが、なぜか優子隊員はタオルを被ったまま石に腰掛けて眠ってしまっていた。疲れているのだろうか。

 小雨が降ったり止んだりする天気のもと、しばらくしてランチセットを撤収した我々は再び王滝湖に漕ぎ出た。今度は王滝川の流れ込みを目指す。しかし斜度が結構あるのか、流れは意外と早くて強く、なかなか遡ることはできない。流れの弱い側流のほうをやまちん隊員が上がっていく。オレと優子隊員のヘリオス、シバタ親子隊員の渡り鳥も続く。しかし王滝川の水はやっぱり濁っていてイマイチであった。結局あまりキレイな水でもないので、漕ぎ上がるのを断念した我々はまた白川の流れ込み方面に戻ってきた。
 白川と王滝川の水が混じり合わない所はクッキリと、透明な水とそうでない水との境界線を見せてくれていた。水温が違うこともあるのだろう。また、王滝川の方が水量が多いため全体としては濁った感じの水に見えるのだろうと思うが、もうひとつには白川の水は冷たいため、湖の下にに潜り込んで行ってしまっているということもあるような気がした。   
 また湖面を漂い始めた我々の上には再び晴天が広がっていたのだが、水面には川霧のようなもやが発生し始めていた。それはできては消え、できては消えを繰り返している。やまちん隊員が霧の中に消えていった。ちょっと幻想的な感じもしたが、シチュエーション的にムカシ見たジョン・カーペンター監督の「ザ・フォッグ」(霧の中から幽霊が襲ってくる映画)を思い出した。しかしその後しばらくして、霧の中から登場してきたのは幽霊ではなく、今日もニコやかな笑顔の“スマイリー”やまちん隊員なのだった。
 と、しばらくすると今度は雷が鳴り出した。最初は昼食中にも上空を飛んでいく音が聞こえていたため、ジェット機の音かと思っていたのだが、今度のは違う。湖上で雷の音を聞くというのはあまり嬉しい状況ではないので、時間も4時近かったこともあって上陸することにした。
 我々が上陸し、フネを乾かそうと思った頃に今度はまた小雨である。フネを乾かすのをあきらめ、そのまま片づける。くそう、こうすると家に帰ってからもう一度広げて陰干ししなければならないのでやっかいなのだ。特に今は夏である。川や湖の水で濡れたものを温度の高い所に置いておくと、たいてい
ニオウようになるのだ(イシカワ顧問やうー隊員はフネを車に積みっぱなしなのでよくそうなっている)。
 が、しかし、なんと片づけ終わってさぁ帰ろうかと思ったぐらいの頃には空は雨上がりの晴天となり、少し傾いた太陽がちょっと茜色がかった空を照らしていた。
 神社の周りの雨に濡れた草の匂いが風に乗って香り、それがちょっと涼しい空気と相まって高原に夏の終わりを告げているようだった。




今回の教訓: 「真夏といえども高原の水は冷たい。
 高原の水でもダムがあればキレイとは限らない。」