活動記録其の18・天竜川編
文:隊長
2001年7月22日
鵞流峡に響く悲鳴!
逃亡者続出の天竜川で、チーム“鮫”に何が起こったのか!?
 3度目の正直である(※気田川篇・浜名湖篇参照)。全国的によく晴れた7月22日(日)、遂に我々は天竜川へとやって来た。紆余曲折・離合集散・合従連衡の末、結局今回の我が“鮫”の天竜川アタック・チームのメンバーはオレ(隊長)、イシカワ顧問、miki-fish夫婦隊員の4名となった。
「隊長、いったいぜんたい(←死語)他の連中はどーしたのですか!?」
イシカワ顧問が集合場所で待っていた俺に尋ねる。ま、これについて多くは語るまい。いちいち解説はしないが、他のメンバーは各自あれこれ
「怖いからじゃないです、逃げるワケじゃないんです。」
という言い訳を考えて辞退した、とだけ書いておこう。

「よーするに逃げたんですね。」

・・・よーするにそういうことだ。とにかくいつものように「鰯」となったメンバーを除いた我々4人が、天竜川ライン下りの港がある弁天橋下からエントリーしたのは、これまたいつものように午後約13時であった。


 天竜川はこれまでのどの川とも違った雰囲気を持っていた。周りが拓けたロケーションだということと、ライン下りの遊船が下って行くということの他に、何かわからないが、“何かが”が違っているような気がした。しかし同時にどことなく懐かしい感じもするのだった。その懐かしさの理由はスケールの違いこそあれ(3倍と3分の1くらい規模が違う)、どことなくあの、チーム“鮫”発祥の地・員弁川に似ているような気がした。エントリー後、そんな感傷に浸りつつ下っていくと、しばらくしてプツプツと細かい水しぶきが腕に当たるような感覚がする。お天気雨だった。それは徐々に強くなり、すぐ、はっきりと感じられるほどになった。しかし夏の日のお天気雨は川下りをしている我々にとっては、かえって気持ちいいくらいである。
「キツネの嫁入りってゆーんだよね」
とか思っていると、流れが二股に分かれている所が近づいてきた。前を行くライン下りの遊船は右を行ったようだ。
「去年は左に行って、スグ沈したんですよー」
昨年ファルトボートで天竜川を下って撃沈を連発した経験を持つmiki-fish・妻隊員が言う。それを聞いたオレは迷わず左に進路を取った。今日のオレは飛騨川以来久しぶりに“戦闘モード”で、湾岸戦争ヘルメットを被ってきていたのだ。それがオレをいつもより好戦的にさせていたのかもしれない。問題の難所、鵞流峡を前に、少々の瀬があれば腕慣らしをしておかなければなるまいと考え、ワザとそこそこな瀬が見えるコースに狙いを定めて突っ込んでみた。が、突っ込んでみるとそこそこどころか、結構な大きさのホールが出来ているような瀬もいくつかあるではないか!? しかし視界のいいカーブのため瀬の大きさがハッキリ見え、また複雑な流れではなく、あくまで素直な瀬ばかりであった。爽快に突っ込んで爽快にバウンドし、爽快に弾ける波を突き抜ける。オレはシャーク3号を“乗りこなしている”という手応えのようなものを感じていた。イシカワ顧問もいつものバトルシップ・カラカルで、バウンドする瀬の楽しさを満喫しているようだ。そして参戦2回目、天竜川も2回目というmiki-fish夫婦隊員も、安定感バツグンの“航空母艦”オリノコで昨年のリベンジを果たしているようだ。二人とも表情が水遊びする子供のようになっている。オリノコはまるでラフトボートのように大きくバウンドしながらも、その巨体で瀬をねじ伏せていった。
 いくつかの瀬を越えた後、かなり大きい3級弱くらいの瀬を発見したオレは、勢いに任せてそこにもまっすぐ向かっていった。ボリューム感のある盛り上がりを越えるとそこには、白く泡立つ水の中に落差1m近いでっかい落ち込みがあり、そのすぐ後には返し波が逆巻いてこちらを向いていた。「ズドン!」という感触がフネを通して全身に伝わったのと、厚みのある水の壁がアタマから襲いかかってきたのがほぼ同時だった。フネのへさきが波の根っこに突き刺さったように見えた。かなり勢いに乗って入ったはずなのに、ホールの中で波にぶちかましを食らって一瞬フネの勢いが止まる。と、今度は後ろから落ちてくる水が! いつかの長良川・二股の瀬で食らったバックドロップがフラッシュバックされるが、腹に力を入れてカラダを前傾にし、前の壁に右からパドルを叩き込む。すかさず左! と全力でパドリングすると、前方の波は砕けてアタマの上や肩口を通過していくような感覚が...。そしてオレは瀬を抜けていた。通過した後、プールに浸かっている様な水船となったシャーク3号(一応セルフベイラーが付いているにも関わらず、水が大方排出されるのに2〜3分かかる!)の中で、オレは当たり前の事に改めて納得していた。「ずどーん!」という落ち込みのコトを「ストッパー」というが、それはフネを止めるから「ストッパー」というのだ、と。いつの間にかお天気雨は上がっていた。


腕慣らしを終えた頃、左岸に「何コレ? 竜?」という感じのヘンな絵というか、タイルのオブジェのようなものが描かれている所に到達する。それが「こっから先が鵞流峡」という印であった。
 我々はフネを左の川原に寄せ、鵞流峡突入前にエアーを再注入するため上陸する。インフレータブルカヤックは夏場の暑いときだと陸上で空気をいっぱいいっぱいまで入れても、水の上に出たとたんエアチューブが冷やされて空気の体積が小さくなってしまい、少ししぼんでしまうのだ。鵞流峡はカンペキな状態で突入しなければ安心できない難所である。入念な準備が必要なのだ。しかも昨年一度来ているmiki-fish夫婦隊員によれば「前回より水量は多い」とのことである。そして鵞流峡前の瀬でも先ほどの様なパワーホール(※パワフルなホール(落ち込み)の意、決して長州力のテーマソングのことではない)があるぐらいである。ウワサに聞く“暴れ天竜”の象徴・鵞流峡とはいったいいかなる所なのか!? はやる気持ちを抑えながらオレは念入りにエアーを再注入する。

 そしてチーム“鮫”天竜川アタック・チームはイシカワ顧問を先頭に、遂に天竜川最大の難所・鵞流峡へと突入した! 鵞流峡入り口の橋の下あたりから豪快な瀬が連発していた。先を行くイシカワ顧問の姿が時々波間に消える。
「うおぉ! イシカワくん大丈夫かぁ?」
と思ったのもつかの間、オレも目の前に迫ってきた瀬に前傾姿勢で突入。フネがロデオのようにハネる。弾ける波しぶきを蹴散らし、次々と突破していく爽快感がタマらない。100mほどの連続した瀬を抜けた後、しばらく流れの緩いところがあったと思うとまたしても右カーブ後の前方にヤバそうな盛り上がりが! イシカワ顧問は右か左か迷ったあげくやや右よりから落ち込みに突撃。スルッ! と盛り上がりの向こうに消えたが、すぐ飛び上がるように現れる。続いてオレの番。
「よし!行ける!」
何の根拠もなくそう思ったオレは盛り上がりをよけず、ど真ん中に向かって突っ込んだ。「フワッ」としたコンマ2秒くらいの激短な浮遊感覚の後、すぐに下方のホールが視界に入る。落差1mオーバーの、あのオレにバックドロップを食らわせた長良川・二股の瀬と同等かそれ以上の落ち込みだ。
 しかしあの時のオレとはフネの戦闘力と腹筋のデキが違う。波のてっぺんから「ザブン!」と音を立てつつ、アタマっからホールに突っ込むシャーク3号。もちろん腹筋を限界まで効かせた重心の低い超・前傾姿勢である。肉厚の返し波をくぐるようにその根本にフネがブチ当たった瞬間、間髪入れず渾身の力を込めて水中をパドリングすると、なだれのように襲いかかってくる波を突破するのに成功! 昨年の員弁川・魔の撃沈カーブを初めてクリアした時以上の最高の感覚だった。
「よっしゃあ!」
オレが自分に酔い始めたその時、
「キャアァァー!!」
火曜サスペンス劇場のような女の絶叫が...。miki-fish・妻隊員であった。しかし、それでも先ほどの強烈な落ち込みを、オリノコは大きくバウンドして無事に通過してきた。ってゆーか、悲鳴をあげつつも顔は絶叫マシーンに乗っているかの如く、しっかり笑顔である。一年前は撃沈して200mも流された同じ場所を笑顔でクリアーしたのだ。恐るべし夫婦パワー。

 そしてその3級オーバーの瀬の直後、我々は右岸に強引に上陸。その目的は、この難所のど真ん中で、スパゲッティを茹でて食べるという、鵞流峡をナメきった所業を犯すためである。岩の上にテキパキと鍋セットを展開し、イキナリ湯沸かしを始める我々。その横5mぐらいの水面を、呆然とした顔の乗客を乗せた天竜ライン下りの遊船が次々と通過していく...。にこやかに手を振る我々。スパゲッティを茹で始めるとまた遊船が...。笑顔で手を振る我々。スパゲッティ完成! 粉末バジルソースを絡めて食べ始めるとまた遊船が...。にこやかに愛想を振りまく我々。だんだんサファリパークの動物の気持ちが分かってくる。だが、こんな瀬が連発する切り立った岩場で、しゃがみ込んでビールを飲みながらパスタを食ってる半裸の人間たちに注目するな、という方がどだい無理というものである。みんな珍しい動物でも見るかのようにこちらを眺めていく。彼らの「天竜ライン下り観光記念」のカメラやビデオにもバッチリ収められ、まるで猿の惑星に迷い込んだ天然記念物の人間(←どうせなら人間国宝のがいいなぁ←意味不明)のような気分だ。しかしこちらから見ても、一つの船に順序正しく20人ほどの人間が、みんな一様に前を向いて並んで乗っている様はどことなく滑稽に見えるので、我々としてもどうしても笑顔にならざるを得ないのである。しかし唖然とした顔で、ぽかんとこちらを見ている人達に手を振ってみると、みんながみんな、その瞬間忘れていた笑顔を思い出したかのように笑い、手を振り返してくれるのだった。
 そんなこんなで4人で1キロのパスタを平らげた(←食い過ぎ)我々は、満腹感に眠くなりながらも再びカヌーに乗り、鵞流峡・後半戦に突入した。ユルい右カーブの後から左カーブとなっている所がどうやらこの鵞流峡最後の瀬のようだ。今までの集大成・総仕上げのように2・3級の瀬の連続攻撃が我々を襲う。しかしそれも瀬への突っ込み方を覚えた(?)我々の敵ではなかった。オレは先頭でカーブに突っ込み、パワー全開のパドリングでいくつか波をぶち抜くと、まだ途中の岩場で無理矢理フネをターンさせ、後から来るイシカワ顧問とmiki-fish夫婦隊員の勇姿をカメラに収める。miki-fish・妻隊員は相変わらず大きな落ち込みの所では笑顔で絶叫(←本人いわく、気合いを入れるため)していた。

チーム“鮫”遂に鵞流峡をクリア!

 その時我々アタック・チームの全員が弛んだ笑顔となっていたのは言うまでもない。


 その後の天竜川は再び視界も拓け、我々にのどかな川下りを提供してくれた。あれほどびびっていた鵞流峡を無事クリアした達成感からか、我々は漕がずにまったりと流される、いつもの“鮫”になっていた。照りつける太陽とは裏腹に、川面を吹き抜ける風は涼しく、思わず口をついて出た言葉は
「もう秋かぁ...」
である。
「まだ7月ですよ!」
イシカワ顧問のツッコミも、説得力がないほど涼しく、心地よい天竜川なのだった。
 そんな感じでまったりとしながらしばらく行くと、こんどは天竜峡である。しかし鵞流峡とは対照的に天竜峡は瀬もなく、静けさに包まれた峡谷であった。ここでも我々はまったりと流され、イシカワ顧問は一瞬マジ寝してしまうほどリラックスしていた。途中の、これまた土曜ワイド劇場で、転落する人に見立てた人形が落ちてきそうな吊り橋の上から、観光客が我々の写真を撮りながら手を振っていた。ちょっと張り切って漕いで見せ、愛嬌を振りまいてみる(←ほとんどパンダになった気分)。
 その後も心地よく、時に漕ぎ、時に流され、約10km・3時間半の行程を終えた我々は阿知川との合流地点でアウトした。天竜川は水質はいまひとつ、という感じだが、かなり楽しめる川である。瀬で遊ぶ楽しさを良く教えてくれる川(かなりパワー使うけどね)、ということも言えるかも知れない。「こういうスリリングな川もイイなぁ」と思った、まったり系カヌーチームの“鮫”なのだった。

今回の教訓: 「ストッパーはフネをストップする。
     ...って、そりゃ当たり前だ」