活動記録其の47・天竜川編part−2
文:隊長
2002年6月16日
アンブレイカブル復活!?
〜チーム“鮫”今期初の鵞流峡突入でシミズ隊員のトラウマの行方は?〜
またしても我々は天竜川にやってきていた。6月16日午前約11時。天竜ライン下りの船着き場、弁天港近くの川原にはオレ(隊長)、miki-fish夫婦隊員、そして今日、ここでトラウマを克服する予定のシミズ隊員の姿があった。本日の参加メンバーはこの4名である。

 天候は昨日の牧田川とはうって変わってイマイチの曇り。予報では晴れるハズなのだが、なんだか重たい色の空である。前回来た時はスタート直後にお天気雨の洗礼を受けながらも爽快なリバーツーリング&瀬遊びができたステキな川である。

 さて、今回ここを遠征先に選んだのはシミズ隊員のためである。なぜなら参加以来幾多のツアーに参戦しながら連続不沈記録を誇り、チーム“鮫”のアンブレイカブルと称賛されたのは今年の3月までのことだ。そんなシミズ隊員が忘れもしない3月31日、降雨後の“幻の板取川”エントリー直後のウェーブであえなく
吹き飛ばされ、9年間誇ってきた不沈記録に終止符を打ってしまったのだ。
 それからのシミズ隊員の転落は、まさに坂道をトップギアで転がり落ちるような、それまでのシミズ隊員を知る者には驚きさえ感じるほどの没落具合なのだった。
 長良川・二股の瀬ではスーパーチキンルートを行き、根尾川では以前一度越えている発電所の瀬をポーテージする
“鰯”ぶり、それだけでなくアビルマン隊員を始め、ゆかまる隊員、うー隊員、sakuzo隊員など、人の疎沈を待ち望み、瀬の音が聞こえると人の艇の後に回り込んで決して自分から先には瀬に入らないという「ストーカー航法」まで編み出す始末である。 
「このままではイカン!」
“鮫”No.1の使い手の称号はsakuzo隊員に譲ったものの、メンバー中カヌーキャリア最長を誇る技術と経験をこのまま埋もれさせてしまうのはあまりにも惜しい。また、No.1の使い手となったハズのsakuzo隊員がフネをリンクスUから“疎沈製造船”GUMOTEX・サファリに乗り換えてしまったため、最初の揖斐川こそクリアしたものの“ミスター沈”ことアビルマン隊員と新(沈?)ユニット“赤い2連星”を結成し、飛騨川そして矢作川とそれほど大したこと無い川だったにも関わらず、劇的に沈数を伸ばしてしまったその挙げ句の果てには、最高沈記録を更新して“ウルトラ7”の称号まで得てしまったのだ。
 まったり系ツーリングカヌーチームである我が“鮫”には安定感のあるメンバーを欠くことは出来ない。どんな時にも果敢に川と戦い、メンバーにとって安心感あるバックボーンとなるべき存在が必要なのだ。てなコトでオレはシミズ隊員を蘇らせるべく、秘策を練るに至った。そして出た結論は、ムカシ田舎のおばあちゃんから教わった
「海でした怪我は、海に浸かれば治る」
という
よくわからない教訓をもとに
「瀬で追ったトラウマは、瀬に突入すれば癒される」
という、これまた謎が謎を呼ぶ、こじつけを遙かに越えて意表をついたものだった(←大丈夫かよ!)。
 それで今回の天竜川ツアーなのだ。このステキな瀬(ってゆーか主にウェーブだけど)がたくさんある川で、シミズ隊員に瀬遊びの楽しさを思い出してもらおうというリハビリ企画なのである。さて、その結末は?
 
 弁天港を出た時は天候もすぐれず、それはまさにシミズ隊員の今の状態を表しているかのようであった。表情はにこやかではあるが、心持ち緊張しているように見える。しかも相当警戒しているのか今日はヘルメットまで被っているシミズ隊員なのである。我々より先に出たポリ艇やファルト、カナディアンの混合チームの皆さんもヘルメットを被っている人はチラホラだ。そもそも沈しても天竜川は水量が豊富で深く、当たるような岩もあまりないため比較的安全な川である。そこで“矢切の渡し”ができるほど安定のいいダッキー“飛騨之守弐号”スターンズ・レイカーソロを駆るシミズ隊員が、カヌー人生初のヘルメットを被っている様は不思議な光景であった。どうやら前夜に読んだ転○隊の本の中の天竜川についての
恐ろしい記述が、シミズ隊員をしてそうさせているらしい。

 スタートしてちょっと行くと真ん中に中州があり、左の流れを行けば前回オレが初めて“ストッパー”ってヤツを体感した連続した落ち込みがあるはずだった。
 
 そこでここはオレが先頭切って突っ込んで、シミズ隊員を元気づけるべきかと思った。が、なんとシミズ隊員は自ら先頭で突っ込んでいくではないか。
 続いてmiki-fish夫妻隊員の“航空母艦”オリノコが行く。ヤル気マンマン“シャーク3号”スターンズ・リバーランナーで来ているオレは最後の突入になってしまった。
 2年前はそこで撃沈したmiki-fish妻隊員の心配をよそに、シミズ隊員はど真ん中をクリア、無事に次の瀬に向かい、そこも水船になりながらも普通に越えていった。オリノコも大きく揺れたが当たり前に瀬を踏み潰し、クリアしていく。
 オレも昨年同様、ど真ん中のラインに乗り突っ込む。
「ありゃ?」
水量が少ないのか、なんだか前回よりかなり落差が小さくなっている気がする。あの、ガツン! とぶつかってきた水の壁がないのだ。ただのちょっとウェーブが大きい瀬であった。しかし入り方を少しミスったのか、越えた瞬間右にヒネられ一瞬グラつく。
 なんとかリカバーしたが、やはり先日の矢作川と同じく、フロアーチューブを押さえるファスナーが壊れてフロアが少し浮いている分だけ重心が上がっていて安定が悪い。シミズ隊員のリハビリに来て、オレが撃沈するなどというシャレにならない失態だけは、何が何でも避けなければならなかった。それでなくても最近、櫛田川・矢作川となぜだか連発で撃沈に見舞われているオレである。慎重に行くことを再確認する。
 と、今度はフロアでなく、浮力体に問題が発生。フットレストになっている足元の浮力体の
空気が完全に抜け、しぼんでしまったのだ。どうやらバルブをしっかり閉めていなかったのにグッと踏んで力を掛けたのが原因らしい。鵞流峡突入前にエアーを再注入しなければ...。

 天竜ライン下りの乗客を乗せたフネがちょっとした早瀬を通過していった。すぐあとにセンターラインに入って続く我々。爽快レベルの瀬だ。やっぱりこの川は瀬遊びが楽しめる川なのだ。
 鵞流峡を示す左岸の護岸の竜の絵の下にいったん寄せて、“航空母艦”からポンプを借りてエアーを注入するオレ。昨年もここで鵞流峡突入前の入念なチェックとしてエアーを補充している。あの時はまだ見ぬ未知の難所に、緊張し、少し怯え、そしてドキドキしていたことを思い出す。今のシミズ隊員の心境もそんな所だろうと思う。チラリと目をやるとヘルメットの下の顔は意外に笑顔である。自信を取り戻し始めているのか、それとも開き直ったのか...。
 
 いよいよ鵞流峡に向かうチーム“鮫”第二次天竜川アタックチーム。右岸寄りから大きく左カーブを描きながら流れが細くなっていき、前方の屹立する岩肌を掠めながら大きなウェーブが続く。とりあえずここはオレが先頭を行くことにする。腹筋に力を入れ、襲い来るバウンドと闘うオレ。素晴らしい勢いで飛沫が掛かる。しかし爽快な瀬だ。
 鵞流峡の始まりを示す橋の下をくぐったオレが後を振り返ると、そこには
(もうタマんねぇ!)といった感じの笑顔を浮かべるシミズ隊員がいた。かなり爽快だったようだ。水船になっているのでいつものようにビルジポンプで排水をしているが、とりあえず鵞流峡入り口の瀬(ウェーブ)をクリアした嬉しさと楽しさでニコニコ顔である。
 続いて昨年、前を行くイシカワ顧問の姿を一瞬後から見えなくした、大きな落差のある瀬があるハズだ。ここが瀬といえば今回のコース最高グレードの瀬である。が、最大の落差のハズがどうってことなくクリアしてしまう我々。どうやら前回より相当水量が少なく、落差も勢いも相当弱まっているようだ。瀬の真ん中で水柱を上げて水流を切り分けていた岩が完全に露出していて、前回は真上を突破したのだが、今回はムリに乗り越えようと突っ込めば、ただの岩との正面衝突になりそうなほどであった。  
 
 前回と同じく鵞流峡中程の岩場に上陸し、またしても“鵞流峡パスタ”を茹で始める我々。本当は今回来るはずだったパスタ好きのイシカワ顧問のリクエストに応える形でメニューをペペロンチーノにしたのだが、彼が急病のため棄権してしまったため、
またしても4人で1kgという膨大な量のパスタが我々の前にはあった。前回はイシカワ顧問一人で約350gくらい食べてもらってどうにかこうにか消費しているので、今回はあらかじめ300gほど除いてから茹で始める。
 そしてパスタが茹で上がる頃、
恒例のショータイムの開始である。茹でている間、なぜだかまったく来なかったライン下りの観光船が、まるでパスタ・ペペロンチーノが出来るのを待っていたかのように次々と現れる。
 前回同様、またしても鵞流峡パスタをほおばりつつ、ニコやかに手を振る我々。miki-fish旦那隊員はビール片手に声援に応えている。またしても昨年に引き続き
パンダ状態である。
 結局5〜6隻(食うのに忙しくて、いちいち数えていない)の観光船に手を振り、結局7〜8台のビデオカメラ(食うのに忙しくて...以下同文)に好奇の対象として撮影された岩場の上の“自炊する珍獣”チーム“鮫”第二次天竜川アタックチームは、約50分後再び鵞流峡へとエントリーした。
 
 その頃にはいつの間にか空は晴れ、爽快な初夏の日に変わっていた。まるで今日のシミズ隊員の気分とシンクロしているかのようである。
 天竜川が3度目となるmiki-fish旦那隊員が
「鵞流峡はイメージ先行型」
と言うように、まさに今回はとても楽しいだけの瀬遊びができた鵞流峡だった。シミズ隊員はどうやら完全復活を遂げたようである。
「二股の瀬のリベンジも行かないといけませんね!」
などと威勢のいいことを言い出している。そこで
「板取も行く?」
と、水を向けてみると、
「雨が降らないとあそこは行けないんですよねぇ〜」
と少々残念そうなそぶりまで見せていた。
 これは楽しみである。今年はすでに鮎釣りが始まってしまったため難しいが、来年でもまた板取川に行くチャンスは巡ってこよう。その時こそ復活の“アンブレイカブル”
シミズ隊員の勇姿が見られるに違いない。そもそも板取川にしろ、あの“幻の瀬”を除けばシミズ隊員が撃沈するような川ではないのだ。勝手に早くも次回が楽しみになってきたオレなのだった。

 その後はゆったりまったりと我々は天竜川を流れていった。
 
 時又を過ぎ、天竜峡に入る。ここも峡谷だが、瀬らしい瀬はまったくない。中程に観光船の船着き場があり、並んで記念写真を撮っている観光客たちの姿が見えた。そしてその先の橋の上からは
「いいなー! うらやましー!」
「カッコいいー!」
という声援が聞こえてきた。我々のコトだろうか(←もちろんそうです←エラそう←すんまそん)。
 軽いスター気分を味わいながらゆったり流されていく我々の横をライン下りの観光船がまたしても通過していく。今度は船頭さんが魯で漕いでいるので、とてもゆっくりで、ちゃんと漕げば我々のが早いくらいだ。追い抜かしてやろうかと思ったらエンジンをかけて、スクリュー回して行ってしまった。

 そしてその後もタラタラと漕ぎ続けた我々チーム“鮫”第二次天竜川アタックチームが、阿知川の流れ込み近くに上陸したのは、午後3時30分を少し過ぎた頃だった。
 今回は出が早かったせいかヤケに早く着いてしまった。次回はもうちょっと上流からスタートしてもいいかなと思った今回のツアーだった。

今回の教訓: おばあちゃんの言うことはいつも正しい...(?)