活動記録其の20・豊川編
文:隊長
2001年8月6日
沈!沈!沈! チーム“鮫”隊長自爆に誘爆!?
〜そして彗星のように現れた男“Mr.6(シックス)”の正体とは!?〜
 広島では原爆投下の時間に合わせて黙祷が行われていた8月6日(月)午前8時過ぎ、ド平日の朝にも関わらず、オレ(隊長)はまたしても東名高速を東へとひた走っていた。6月の気田川・平日チャレンジに味をシメていた我々は、鮎釣りシーズンには漕行不可能と言われている豊川を、これまた「平日ツアー」という荒技で下ろうと画策したのであった。しかし2段階集合場所の1段目、東名赤塚パーキングエリアに着いてみると、30分以上早く着いてヒマを持て余していたダッシュ隊員の他は集合時間を決めたイシカワ顧問、遅刻。ラスティック伊藤隊員、ドタキャン。「集合時間をもっと早くしましょう」と提案したmiki-fish夫婦隊員、遅刻というていたらくであった。まったくチーム“鮫”である。いつものこととはいえ、少々呆れたオレはとりあえずダッシュ隊員と二人で先に行き、スカウティングでもしようと赤塚を出発。現地のアウトポイント兼集合場所・桜淵公園へと向かう。そこには我が“鮫”のホームページを見てEメールで入隊を志願してきた奇特な人物・シミズ・ゲスト隊員が、連絡を取っていた張本人なのに寝坊したイシカワ顧問に待ちぼうけを食わされて待っているハズだった。

 午前約10時30分、オレとダッシュ隊員は桜淵公園の河原にアロハシャツを着て突っ立っていた。そこへシミズ・ゲスト隊員到着。イシカワ顧問から聞いてはいたが、会うのは初めてである。聞いてみると彼は名古屋市内の某テレビ局に勤めており、オレとは共通の知人が何人かいて、なんだか安心する。しかしシミズ・ゲスト隊員が持ってきているのは“鮫”には似つかわしくない高級カヌー、ファルトボートの「パジャンカ」であった。8年前に買ったものだが、今まであまり使っていなかったらしい。そんな身上調査などしているウチにmiki-fish夫婦隊員が到着。イシカワ顧問ももうすぐのところまで来ているようなので、とりあえず食糧を買い出しに動くことにし、ダッシュ隊員とシミズ・ゲスト隊員のクルマをそのままアウトポイントに置いて出発する。
 すぐそばのコンビニでメニューの相談をするが、miki-fish夫妻の提案で本日のメニューは「ラーメン」となった。味は民主的に多数決の結果「味噌」となる。携帯メールでその旨をイシカワ顧問に伝えると
「チャーシュウ希望」

とワガママな返事が返ってくるが、もう店を出ていたので無視してエントリーポイントに向かう。

 途中で行き過ぎて迷ったりしながらも予定のエントリーポイントである滝神社に着いた我々は川へ続く小径を通ってフネを運び、ゴツゴツとした岩場でセットアップ開始した。イシカワ顧問も道に迷いながらもやっと合流し、オレ(隊長)、ダッシュ隊員、miki-fish夫婦隊員、シミズ・ゲスト隊員、イシカワ顧問という本日の豊川ツアーメンバー6名がやっと勢揃いする。汗だくになりセットアップを終えた我々がエントリーしたのはいつもよりちょっとだけ早い午後約12時であった。miki-fish・夫隊員はあまりの暑さにいきなり川を泳ぎ出す。
「このまま泳いでいこうかなぁ」
などと言っている。



 エントリーした水力発電所の放水口前でセルフベイラー付きの“バトルシップ”GUMOTEX・サファリを初めて川で使うダッシュ隊員に、オレは「フネのバランス」について教えてやることにした。
「いいかぁ、ダッシュ! サイ・ストラップをヒザに引っかけてフネを揺すって見ろぉ。そーすればどれだけフネが安定していて、ドコまでバランスがとれるかわかるんだぞぉ!」
そう言うとオレは同じくセルフベイラー付きで安定性バツグンのシャーク3号(スターンズ・リバーランナー)を左右に揺すって見せる。
「どおだぁ! こんなに揺すってもダイジョウ...ぶわぁぁぁー!!」
という叫び声と共に視界が逆さまになり、オレは水中に消えた。
「ガボッ!? ゴバグボゲボッ...」
これじゃただのアホである。フネの安定性について教えていたハズのオレ、いきなりの自爆。逆エスキモーロールをしてしまったオレはストラップを外すと水面に浮き上がった。ほとんど最悪である。隊長たるものが最もやってはいけない失態を犯してしまった。うーむ。イシカワ顧問が初参加のシミズ・ゲスト隊員に弁解するように言った。
「お笑いチームじゃないんです。」 
 しかし、スタートもしていないのに逆さまになったフネにしがみついて「足が付かねぇー!」などとバタバタやっている情けない人間が隊長という現実が眼前に展開しているのだ。その言葉に説得力がコレっぽっちも無かったコトはもちろんいうまでもない。教えを受けていたハズのダッシュ隊員まで爆笑している。ああカッコ悪りぃ! しかし、それが悲劇のプロローグだとは、その時まだ誰も気づいてはいなかった。



 そんなマヌケな状態ながらもとりあえずスタートを切った直後、30mほど行くといきなり二股に分かれた瀬が我々を襲う(でも1級も無い)。普通にクリアする我々。のハズが、流れ込みの合流ポイントでダッシュ隊員が突然疎沈してしまう。なーんてコトない横からの流れを受けたGUMOTEX・サファリ、ダッシュ2号は、まるでバイクで言う「立ちゴケ」のように「コテン」とコケて沈してしまったのだ。スタート後100mも来ていないのに2隊員が沈してズブ濡れという、およそ安定性のいいインフレータブル・カヤックのみのチームとは思えないほど情けない実力のチーム“鮫”なのであった。ファルトボートで来ているシミズ・ゲスト隊員が笑っている。



 しかしダッシュ隊員の沈はこれで終わらなかった。豊川はハッキリ言って初心者向けの川である。しかもそこへ持ってきて今日は水位がいつもより10〜20cm低いようで、流れにはあまり力を感じないのだ。それでもちょっとした、ホントに何でもないところでダッシュ隊員は隠れ岩にことごとく引っ掛かり、これまたことごとく疎沈してしまうのであった。疎沈の連打で自信と体力と表情までも失ってしまったダッシュ隊員の顔は、少々ひきつってしまっている。相当ヘコんでいるようだ。ちょっと前にはオレの自爆ロールを見て笑っていたのだが、「人を笑わば沈2つ」とでも言おうか。いや、2つどころじゃないか...。本人曰く
「バランスが悪いんです! フネのせいなんです!」
とのことだが、GUMOTEXのホームページでは「For Wildwater」となっているセルフベイラー付きのバトルシップ・サファリである。説得力は無い。しかし一方、確かにこの豊川は、気のせいか本当に隠れ岩が見えにくいような気がする。オレも疎沈まではしないものの、普通なら「イケる」と思えるところで何度も隠れ岩に乗り上げ、止まってしまう。岩の色のせいなのだろうか。ファルトボートのシミズ・ゲスト隊員は言うに及ばず、みんなもいつもより多く、隠れ岩に引っ掛かって止まってしまっていた。前回の天竜川ではその巨体で瀬を「踏みつぶす」ようにクリアしてきていたmiki-fish夫婦隊員の航空母艦・GUMOTEX・オリノコも今日はしょっちゅう浅瀬や隠れ岩で止まって苦戦している。そうこうするウチに今度はなんでもない1級ぐらいの瀬を越えたイシカワ顧問が、瀬の直後にあった大岩に正面衝突して撃沈してしまう。出発してまだ半分も来ていないのに6名中、早くも3名が沈してしまったことになる。なんということだろう。豊川は呪われている!? ...いや、オレの自爆沈が伝染ったのだろうか...!? チョット反省する。
 しばらく行くと結構な瀬(といってもせいぜい2級)がいくつか現れる。このぐらいだと余裕で楽しい。しかし疎沈連発のダッシュ隊員にとっては、さぞ悪辣な瀬に見えたことであろう。そうは言いつつも「瀬」は結構キツい所でも、ナゼかちゃんとクリアしてきているという不思議なダッシュ隊員なのだった。て、コトはやっぱサファリは戦闘力あるんだよな。
「そろそろ慣れてきたかぁ?」
疎沈連発のダッシュ隊員にくっついて先ほどの自爆を挽回しようとアレコレ漕ぎ方を教えていたオレが聞くと、ダッシュ隊員は
「瀬はいいんですよね、なのに、オカシぃなぁ」
と、三重弁まるだしで答えるのだった。
 ちょっといつもより早いけど(←ってゆーか、いつもが遅すぎ)そろそろ昼にしようかと考え始めた頃、またしても20mぐらいに渡って続くちょっとした瀬が現れる。一番大きい落ち込みは50〜60cmくらいあるが、流れにパワーが無いのでカンタンに越える。そしてイシカワ顧問、シミズ・ゲスト隊員と続いた後、ダッシュ隊員とmiki-fish夫婦隊員が入ってくる。中程にある一番大きい瀬を無事に越えるダッシュ隊員。
「おっ、なんだやるじゃないの」
と思ったのは一瞬の出来事であった。その瀬でバランスを崩したのかフネはクルリと回頭反転し、最後の落ち込みに後ろから落ちるダッシュ隊員! 
「あーっ!」
すぐ後からmiki-fish・妻隊員が叫ぶのよりも一瞬早く、またしてもダッシュ隊員は水中の人となっていた。ダッシュ隊員にとっては初の“撃沈”であった。オレは逆さまになって流れてくるダッシュ2号を押さえた。イシカワ顧問は流出したポンプを、miki-fish夫婦隊員は同じく流出したペットポトルを拾う。一年前は、チーム“鮫”発祥の地、員弁川・魔の撃沈カーブで、撃沈した盟友・ジョニィ隊員の流されてくるフネ&パドル&サンダル&その他もろもろを爆笑しながら拾ってやっていたダッシュ隊員が今、まさにあの時のジョニィ隊員の如く流されてくる。「歴史は繰り返す!」(←意味不明)と思ったオレであった。しかし、今度は疎沈ではなく、撃沈である。ヘコんでいたハズの顔には、アノ“撃沈王”イチロー隊員のような、撃沈した後の清々しさが輝いていた。何かが吹っ切れたようだ。
 結局、JR飯田線の鉄橋が見えるランチ・ポイントに上陸するまでの前半、ダッシュ隊員は疎沈4発プラス撃沈1発で計5沈。そしてオレとイシカワ顧問の自爆沈と撃沈を加えてチーム“鮫”は前半戦で「7沈」という大記録を打ち立ててしまったのである。あの、我々“鮫”が世界に誇る“ザ☆スーパー撃沈王”イチロー隊員が欠場しているのにである! なんたることだ。今、まさに“鮫”の歴史が(ってもまだ3年目だけど)塗り替えられようとしていたのだ!
 と、盛り上げっぱなしで突然ハナシは変わるが、今回のランチメニューは肉とモヤシ入りの味噌ラーメンであった。いつものように鍋に水を入れて沸かし、ラーメンを作る→完成→乾杯→いただきます...となるはずだったが問題発生。オレはカッ! と目を見開いて、言った。
「器が無い!」
またである。なんで我々はしょっちゅう何かしら肝心なものを忘れてしまうのだろう。しかし今回の川原でのクライシスは、何の自覚も計画もなく、まったく意識もしていなかったにも関わらず、何故かイシカワ顧問の防水バッグに新品の紙皿が入っていて事なきを得る。なぁーんだツイてるじゃん! と思った我々だったが、それは甘かった。
 岩場の上で味噌ラーメンの他に各自おにぎりまで食べて腹ごしらえを済ませた我々が、後半戦に向かおうとした時、川岸に浮いていたハズのシミズ・ゲスト隊員のファルトボート「パジャンカ」が水船になってしまっているのを発見。水抜きのためひっくり返してみると船体布が4〜5箇所破れ、穴が開いてしまっているではないか。フレームのホネ組みが出ている所が岩と当たるたび、その部分の船体布が擦れて、それを繰り返すうちに破れてしまったのだ。この「パジャンカ」は8年モノということなので経年劣化もあるのだろうが、我々のインフレータブル・カヤックにはせいぜい小さなキズが付いていただけであったことを考えると、やはりファルトボートは構造的に浅い川には向いていないようだ。とりあえずガムテープで補修してスタートする。しかし100mも行かないうちに水面を流れていく茶色い帯状の物体...。シミズ・ゲスト隊員が持ってきていたガムテープは「布ガム」でなく「紙ガム」だったため、あっと言う間にはがれてしまったのである。このため彼はこの後、何度も水船になって重たくなった「パジャンカ」を岸に着けてはひっくり返し、水抜きをするという重労働を余儀なくされる。

 そして後半戦は流れにゆったりした所が増え、それまでワリと切り立って飛騨川の様に見えた両側の崖が低くなるにつれて川に入り易い地形となったせいか、釣り師の姿が激増してしまう。豊川は平日でも釣り師が多いようだ。もう仕事をリタイアしてしまった人達なのか、ヤケに年配の釣り師が目立つ。前方に竿が見える度に先頭を行くイシカワ顧問のパドルが止まる。我々が申し訳なさそうに、なるべく遠い所を通ると竿を上げてくれる気のいい釣り師もいるのだが、大半はそのまま不愉快そうにこっちを見ているだけである。中には
「こっちは金払ってんだ!」
などと魚が釣れない腹いせを見当違いの方に向けてくる根性の曲がった釣り師もいて、こっちもかなり不愉快になる。
 そしてまた、チーム“鮫”に新たに誕生した“疎沈王”ダッシュ隊員が釣り師の目の前の何でもない瀬で、まるでイヤガラセの様に小沈して見せ、更にひんしゅくを買ってしまう。
 気田川に味をしめて平日ツーリングに乗り出した我々であったが、気田川と違って、この豊川は新城「市」を流れているため周りに人家が結構あり、従って平日「ちょっとそこまで」と釣りに来る釣り師の数も春野「町」にある気田川とは桁違いに多いのだった。地元のカヌイストが「鮎釣りのシーズンはあまり豊川に行かない」というのは週末の事だけを指していると思ったのだが、どうやらそういうことでは無いらしかった。
 釣り師がほとんど居ない所はまったりとした静水で、これまた飛騨川を思い出す。澱んでいるため、スタート地点より水がかなり濁っているが、本来の「まったり系」カヌーチームの色が出た我々はぼんやりと景色を見ながらトロトロと流されていった。あまりのまったりした気持ちよさにmiki-fish・妻隊員などはしばらくマジ寝してしまっていたほどである。しかしその間もシミズ・ゲスト隊員のフネは着々と浸水し、気がつくと特殊潜行艇のようになってしまっているのだった。
 結局全行程10kmほどの間に30〜40人の釣り師に会って神経を使い、チーム全体で8沈(内、疎沈4発、撃沈1発、小沈1発の一人で計6沈をカマしたダッシュ隊員を“疎沈王・Mr.6(シックス)”と命名)という不名誉な新記録を樹立してしまった我々が、疲れた体を引きずってアウトポイントの桜淵公園に上陸したのは午後5時を少し過ぎた頃だった。
 上陸後、シミズ・ゲスト隊員はインフレータブル・カヤックの購入と正式入隊を宣言し、ダッシュ隊員は
「今日のことは無かったことにしてください。お願いします。僕はここに来なかった。」
「さっそく隊員のみんなに知らせなきゃな。」
「あぁぁ〜! 次、イチローさんに会ったら何て言われることやら...」
と、ヘコんでいたが、今回ほとんどの疎沈の原因となった「岩」が、あんまり無いと聞いて今度は「天竜川行きましょう!」といつもの調子良さを取り戻していた。そんなこんなでまたも新メンバー&新タイトル登場で、いよいよワケが分からなくなってきたチーム“鮫”なのだった。




今回の教訓: 「必要以上にはしゃぐと自爆し、
  自爆は誘爆します。注意!」