活動記録其の44・矢作川編
文:隊長
2002年6月2日
天罰か!? チーム“鮫”1日12沈で最多珍記録更新!! 
〜そして大活躍した男、ウルトラ“7”とは...?〜
F1よりうるさい音をまき散らしながら軽トラより遅く走る「三河」ナンバーのチェイサーの後を、オレはイライラしながら現地へと向かっていた。遂にあの忌まわしき“鮎解禁日”が着々と訪れ始めている6月2日、午前約9時55分、カッキーンと快音が聞こえそうなくらい晴れ上がった(←いきなり意味不明)空の下、今日は矢作川ツアーなのだ。

 矢作川といえば、最近もっと下流で「矢作川〜矢作古川」というツアーを組んだばかりである。しかし今回は、最近仕事を変わるため、間に休みができて自由にスカウティングに行く余裕ができたうーやん隊員が、超・地元である矢作川上流部に結構遊べそうなスポットを見つけたのが発端である。
 元々は三河湖から香嵐渓にかけての「巴川」という計画だったのだが、スカウティングの結果「浅くてムリそう」となったのが、行き先を矢作川に変更した理由でもある。それがあのような大事件をチーム“鮫”にもたらすことになろうとは、当たり前だが誰も想像だにしなかった。
 うー隊員が見つけたホームページでは、現地に
「殺人ホール」などというシャレにならないネーミングの瀬があるという記述があり、まったり系カヌーチームの我々が行くべき所ではないのでは? という声も一部からは聞かれていたのである。当然のように超・鰯アビルマン隊員は
「ど〜しよ〜かな〜、天気が良かったら行きます」
などと言っていた。しかし当日はこのドピーカンのステキな天候である。当たり前のようにすでに現地に向かっているアビルマン隊員なのだった。

 約10時28分、予定より30分も早く予定の集合場所・名鉄「枝下」駅に集合したのはオレ(隊長)アビルマン隊員。そして“Mr.ホワイトウォーター”sakuzo隊員の3名である。うー隊員は超・近所のため、まだ家にいるに違いない。しかしメールを打つとすぐにやってきた。
 早速上流に向かう。月原の橋を渡った少し下流に車を2台置き、残り2台でさらに上流に向かった。池島公園を少し行きすぎた所で川原へ降りる道があり、車を入れてフネのセットアップを開始する。そこまではうー隊員の事前スカウティングのおかげで、まったく予定通りであった。
 しかし早速問題が発生してしまう。オレの“シャーク3号”スターンズ・リバーランナーのフロアチューブを止めるファスナーが
またしても「バキッ!」といって折れてしまった。昨年の北山川で一度折れたものを、必殺アロンアルファで接着してあったが、さすがにもう限界のようだ。今日はアロンアルファを持っていないのと、近くにコンビニもないことから、あきらめてこのまま行くことにする。ってゆーか、なぜ矢作川に来ると毎回アロンアルファが必要な事態になってしまうのだろう。
 水の上に出て見ると、なんだかいつもよりフロアが浮き上がって目線が微妙に高い感じがした。気のせいだろうか...。

 池島発電所近くの川原から漕ぎ出したのは午後約11時30分である。それにしても今日はいい天気だ。先ほど集合した時からセッティングの間、
「こんなに天気良けりゃ、今日辺り武儀川とか、天竜川とか行ってたら最高だったよねー。水キレイだし、ああ、なんで昨日から気田川解禁なんだー(本当は気田川を予定していたのだが、前日解禁のため巴川→ダメで結局矢作川となっていた)」
などと、上流部であるにも関わらず、イマイチ水質の良くない眼下の矢作川を前に
悪態をついていた我々であった。しかしどうやらこの悪態はしっかりと聞かれていたらしい...。
 ちょっと行くとスグに左岸に池島公園があって、バーベキューや水浴を楽しんでいる人たちが大勢目に入る。が、そこはザラ瀬が続く所で浅く、コース取りに苦労しながらなんとか抜ける。が、うー隊員、オレ、アビルマンと続き、最後に来たsakuzo隊員が、瀬の最後でバランスを崩し撃沈(疎沈?)してしまった。今日はまたアビルマン隊員と二人で“赤い2連星”。GUMOTEX・サファリである。うー隊員はいつものカラカルでこのくらいは全然余裕である。
 いきなり川原のギャラリーの前を流されるsakuzo隊員。今日もまた波乱のスタートである(ってゆーか、最近毎回?)。

 しかしこれがすべての始まりだった。さらに少し行った所で“沈の総合商社”“ミスター・沈”の称号を併せ持つチーム“鮫”が誇るスーパー沈スター、アビルマン隊員がやはり撃沈! 岩に引っ掛かったのが、原因らしい。と、sakuzo隊員もすかさず撃沈してしまう! またしても
“赤い2連星”沈の競演である。sakuzo隊員は
「手を擦ってしまいました」
と、すでに先日の飛騨川パターンにハマりかけているのかも知れない。しかし今日は何かがヘンだ。二人ともヤケにカンタンに沈している感じがする...。しかしこのすぐ先の右カーブの所にはあの、事前に我々を名前でびびらせた“殺人ホール”が控えていた。こんな所でヘコたれているわけにはいかないのだ。体勢を立て直し、再び出発する我々。
 またちょっとした瀬がいくつかあり、前方にその問題の瀬が見えるポイントにさしかかった。と、その手前の瀬を先頭で越えたオレの横に、間髪入れずうー隊員のカラカルが突っ込んでくる!
「うわっ!」
とカラカルとシャーク3号にパドルごと腕を挟まれたオレは流れの中でバランスを崩すも、何とか持ちこたえていた。が、パドルを流出させてしまう!
流石のオレでもパドル無しで“殺人ホール”に突っ込むのはそれこそ“自殺行為”だ(←ホントにシャレんなってないし)。流されるオレのパドルを追いかけてうー隊員が行く。しかし、結構流れがあって回収はカンタンではない。結局追い抜いていったアビルマン隊員がオレのパドルを回収し、うー隊員に渡す。しかし、うー隊員はもう“殺人ホール”に近づきすぎており、そのまま瀬に後向きに落ちて行ってしまう! 
 でも普通にクリアするうー隊員。鳴り物入りの“殺人ホール”とやらも安定性の高いカラカルにかかってしまえばこんなモンである。とか、人のコト気にする前に、
パドル無しで流されている自分のことを心配すべきだった。と、今度は赤いフネが流れてオレを追い抜いて行くではないか!? 
 sakuzo隊員が後方の小さな瀬でまた撃沈したようだ。しかしやっぱり人の心配している場合じゃなかった。“殺人ホール”は目の前である。手で頑張って漕いで、左岸の岩場に寄ったのも束の間、吸い込まれそうな所に出てしまい、危険と判断したオレはフネを捨てる作戦に出ることにする。水に飛び込み、脱出! ...と思ったら、捨てたフネが岸に行き、オレが流されて行くではないか!
「やばっ!」
がんばって岩にしがみつき、なんとか側流に入ったが、一難去ってまた一難、側流は岩と岩の間に吸い込まれており、いわゆる「ストレーナー(←“濾し器”という意味らしい)」になっていて、オレの体は水流に押されたまま岩の下の水中へ!
(しっ、死ぬー!)
人間、真剣にヤバいと状況に対処するのに必死で、声もでないものらしい。めちゃくちゃアセったオレは岩に両手を付き、沈む直前で腕を突っ張って堪える。しかし水流はスゴい力で体が沈められそうになる。こーなるとライフジャケットなどなんの役にも立たない! だが、なんとか体の向きを変えて流れをかわし、岩に捕まって這い上がることに成功した。
 ぜーぜー言いながら岩を登ると、アビルマン隊員がオレのフネを押さえて岩場の隙間で待っていた。
「危なかったー」
と言うと、
「?」
って顔をしてやがる。何か遊んでるようにしか見えなかったらしい。同じ左岸の岩場の上をsakuzo隊員が歩いていた。どーやらフネは流されたが、パドルを握って泳ぎついたらしい。さすが特別機動公務員である。

 岩場伝いに結構歩いて、下流にいるうー隊員の所まで行く。うー隊員はsakuzo隊員のフネの回収に必死で、オレのパドルは左岸の砂地の上に置いてあった。それを拾って引き返し、再びフネに乗り込む。やっと“殺人ホール”に挑戦である。
 まずアビルマン隊員が離岸。上流に向けて出て、フェリーグライドで対岸側の流れまで行くハズが、いきなりへさきをグイッと曲げられてそのまま瀬の方に吸い込まれていった。
「いった(撃沈した)な...」
オレがそう思ったのは言うまでもない。
しかし! なんとアビルマン隊員は普通にクリアして“殺人ホール”を越えていったのだ。
「!!??」
(なんだよー。後ろ向きカラカルといい、名前のワリに大したコトねーんじゃねーの?)
とオレが思ってしまったのは、これまた言うまでもない。
 が、スルッと瀬に入ったオレを待っていたのは、右にグニャリとヒネられた複雑な落ち込みと右からの返し波だった。スカウティングではホールのど真ん中を突破すればバランスを崩すコトもなく普通にクリアできるハズだったのだが、流れに乗り、コースがやや左にソレてしまったのだ。右舷側がストッパーの水流に捕まって沈み込み、バランスを大きく崩すオレ。いつものように腹筋を利かせれば...と思ったが、もう姿勢が後に寄っていて遅かった。白く泡立つ水の中にひっくり返ったオレはそのままシャーク3号と共に流されていったのだった。その模様をsakuzo隊員が岩の上から嬉しそうに撮影している。
「隊長! バッチリ撮りましたよー!」
くそう。しかし
「人を笑わば沈2つ」
というコトワザもあるのだ(←ねーよ!)。

 瀬の下にはすでに全員集合していた。しかしアビルマン隊員はオレと同じく水の中だ。なんと“殺人ホール”をクリアして安心したアビルマンは、その流れの後で
いきなり疎沈して流されていたのだ。お調子モンである。
 右岸の岩場でリカバリーしたオレは、そこでもうランチを取ることを提案する。みんな撃沈連発だし、ヘバっているはずだ。ってゆーか、さっきのストレーナーと撃沈でオレがヘバっていた。

 早速上陸し、ランチセットを展開する。今日のメニューはつい先日までイタリア旅行に行っていたうー隊員のおみやげで、ショートパスタである。味付けは前日から仕込んだトマトソースらしい。が、
「ウソー? やっちゃったー!?」
という声が...。
せっかく仕込んだトマトソースを、家の台所に
キレイに置き忘れてきたうー隊員なのだった。
 やっぱり今日は何かがヘンだ...。
しかし、たまたま持ってきていたジェノべーゼの瓶が我々を救った。ショートパスタ(マカロニ)を大鍋で茹で上げ、ジェノベーゼを絡めたパスタは格別のウマさである。
 本日すでに3沈しているsakuzo隊員に、記念に音頭をとってもらって乾杯する。照りつける日差しがかなり暑い晴天の下、瀬で豪快に撃沈した後に飲むビールはやはり最高のウマさだった。
「うーん、さいこー。生きてて良かった...」

 それにしても今日はすでにsakuzo隊員が3沈、アビルマン隊員が2沈、オレが1沈と、前半だけで、もうトータル6沈のチーム“鮫”である。ヤバい。この調子だと、チーム最高記録・昨年の豊川で樹立した1日8沈に
並んでしまうかも...。と、まだその時は、いってもタイ記録くらいで済むだろうとタカを括っていたのだが...。

 しかしその考えがアマかった事は再スタート後、序々に明らかになっていく。そこからしばらくは1級弱くらいの瀬が次々とやってくる。なんてことはないのだが、隠れ岩に引っ掛かるのか、ボイルに突き上げられるのか、sakuzo隊員が撃沈連発である。本人もしきりに
「おかしい!」
 と、首をヒネっていた。そしてその合間にはアビルマン隊員もソツなく撃沈をカマしている。1級もないような瀬ばかりなのに、
着々と増える沈数。sakuzo隊員に至っては慎重に慎重をさらに重ねて念を入れて、オレやうー隊員が余裕でクリアしている小さな瀬でも、いちいち岸に寄せては入念にスカウティングしている。それでもなぜか沈してしまうのが、今日のsakuzo隊員なのである。
 結局百月発電所下まで来た段階で、sakuzo隊員6沈(チーム“鮫”個人最高タイ記録)、アビルマン隊員4沈(自己最多タイ)、オレ1沈(←痛恨)の
計11沈で、チーム最多記録をイキナリ更新してしまっていた。

 でももう大した瀬はないハズ、と思った我々の前に白い飛沫を景気良くハネ上げる瀬が轟音と共に見えてきた。
「ヤバいですよ! 見ましょう」
と、sakuzo隊員が左岸に寄せて川原を歩き出す。オレもそのハンパじゃない轟音にびびってスカウティングに行く。
 そこは右岸寄りを緩い左カーブで流れている所が1〜2級の瀬で、その先の流れのど真ん中に巨岩が2個。1つ目は相当早い流れが強力に当たっているようで、岩全体がブ厚い水の壁をまとっているように流れの中に屹立している。そのスグ後にこれまた幅広の岩がどどーんとあって、コイツの下は落差約1m、返し波7〜80cmの豪快なストッパーになっていた。
 前半の“殺人ホール”はせいぜい2級だが、コイツらはどう見ても3級はある。特に真ん中に盛り上がって飛沫を垂直にブッ立てている岩に命中したら、フネが爆裂しそうな勢いの強流である。
「ううう、コイツはヤバいかも」
びびるが、はて? と思い当たる。そういえば、左と右のカーブの違いはあるものの、あの幻の急流・板取川の“幻の瀬”に似ている気がした。そう思うと、あれよりは落ち込みの位置がぜんぜん素直だ。しかも落ち込みや返し波のグレードも一段低い。
 だんだんイケるような気がしてくる。
「うーむ」
唸りつつ考えたオレは突入を決意する。最悪、直前でヤバいと思えば、“幻の瀬”と同じく超内側の
チキンルートを回ればよいのだ(←このヘンが小ずるいオレ)。
 フネの所まで引き返したオレは“シャーク3号”スターンズ・リバーランナーに乗り込む。“殺人ホール”(←それにしても名前だけは物騒だ)では油断したばかりか、最近シャーク4号・ヘリオスばかり乗っていたため、サイストラップ装着と腹筋をバッチリ使った低重心漕法すらすっかり忘れてしまっていて遅れをとったが、ここまでの後半戦でほとんどカンを取り戻していたオレはドキドキしながらも少々の期待感を持って瀬に向けて漕ぎ出した。最初の1〜2級の瀬を水船になりながらも余裕でクリアし、予定のコースへ。しかし流れが予想以上に強く、思ったより右へ行ってしまう。
「うおーっ!?」
一つ目の巨岩の前で横向きになったシャーク3号だが、なんと岩には水のバリアがあるようにフネが弾かれた。
「アレッ?」
と、逆に驚きつつもバランスを立て直したオレは、二つ目のストッパーの左ギリギリを突破して次のウェーブへ。最後のウェーブは気持ちいいだけであった。
 オレがなんなくクリアしたのを見て、なんとアビルマン隊員までもが、一つ目の岩の見えないバリアに弾かれるが如く、無事にクリアしてくる。なんだかホントに、疎沈はするけどデカい瀬では、着実にサファリの戦闘力を発揮出来るようになってきているアビルマン隊員である。
 続いてうー隊員が行く。オレよりさらに右寄りのルートを進み、一つ目の岩に命中しそうになるが、まるでそれを踏み潰すようにクリアし、二つ目のストッパーの左をかすめて無事クリア。
 意外にも見た感じよりは普通にクリアできる瀬のようである(←偶然?)。そして続くのは本日ここまでですでに6沈で、“疎沈王・Mr.6(シックス)”ことダッシュ隊員が持つ一日沈記録・6沈にタイ記録として並んでしまって後が無い、“特別機動公務員”sakuzo隊員である。
 sakuzo隊員も同じコースを予定通り進み、一つ目の岩へ...と思ったら、なんとその直前で撃沈。流されながら一つ目の岩の横を通り抜け、二つ目の岩の横も通り抜け、そのまま下流のウェーブにまでフネとバラバラになりながら行ってしまった。

 遂に不滅と思われた沈記録が更新された瞬間であった。sakuzo隊員の
7沈目である。なんということであろう。ウィリー漕ぎをして見せるなどチーム“鮫”No.1の使い手と言われ、日頃長良川上流をテリトリーとしているsakuzo隊員が、リンクスUからサファリに乗り換えた途端コレである。歴史、そして記録は常に塗り替えられる運命にあるのか!? 最近理由をくっつけては棄権し、未だ今シーズンまったく川に出ていないダッシュ隊員としては、してやったりという所だろうか。自分が逃げ回っているウチにsakuzo隊員が勝手に記録を破ってくれてしまったのだ。

 その後はほとんどまったりと、そしてタマに0.5級程度の瀬があるくらいの矢作川だった。sakuzo隊員はここへ来てやっと
「ちょっとフロアに空気入れすぎたらしいですわ。少し抜いたら急に安定しました」
と言っており、そこからは疎沈すらしなかった。しかし時すでに遅く、
沈記録は“7”、チーム“鮫”としても1日12沈という不名誉な沈記録をうち立ててしまったのである。しかもあのご無沙汰している“撃沈王”イチロー隊員や、“疎沈王Mr.6”ダッシュ隊員が来ていないのに、である。
 来る時に 「天気がいいから天竜川のが...」 とか、
「武儀川のが...」
とか言っていたのが、川の神様に聞こえて、お怒りになったのだろうか? 難易度としては最後の“新記録の瀬”(←またしても勝手に命名)以外はどーってコトない感じだったのだが...。
 そして今回、最高珍記録7沈をカマしたsakuzo隊員に、オレは栄えある称号として
「ウルトラ“7”」の名を送ることにした。
 と、まぁ色々あったが、意外な所に意外なハプニングがありつつも、なかなか面白かった今回の矢作川・上流ツアーであった。

今回の教訓: 川に行ったら川の悪口は慎もう。川の神様が怒ると良からぬ記録ができる